カンバセーション…盗聴…

映画

★★★★★  1973 アメリカ 監督:フランシス・フォード・コッポラ 出演:ジーン・ハックマン、ジョン・カザール、ハリソン・フォード

あらすじ

プロの盗聴屋・ハリーは依頼を受け、不倫カップルの会話をテープに録音していた。そこには、依頼主がカップルを殺そうとしていることが記録されていた…。

感想

普段はホラー映画やアメコミ映画ばかり観るので、たまには「巨匠の作った受賞映画」を観てみた。

ストーリーに大きな動きはなく、主人公も地味なオッサンなので、中盤で挫けそうになったが、終盤の展開で一気に面白くなり、エンドロールが流れる頃にはスッカリ見入っていた。

盗聴を生業とする主人公。腕前は確かなモノで自負もあるが、孤独や罪悪感を抱えている。そんな男の心情や行動について明解な説明描写はなく、コツコツと地味に積み上げて徐々に人物像や過去が分かってくる。そのため前半は結構退屈なのだが、徐々に自滅しそうな緊迫感が高まると話は面白くなる。お仕事系ドラマと思っていたら突然、サイコ・スリラーに変貌し、終盤の畳み掛けに驚いた。映画冒頭の大勢の人で賑わう広場のシーンとは対照的に、崩壊した自室で独りサックスを吹くラストシーンは痺れた。

地味な主人公

ジーン・ハックマン演じる主人公は「ヒゲ・眼鏡・ポッチャリ」という堂々たるオッサンの風情。そもそも盗聴屋なので目立たない容姿は仕事に適しているかもしれないが、映画の主役にしては地味。それでも見続けてしまうのは名優のなせる技なのだろうか。

不意に若きハリソン・フォードが登場して驚いた。この頃から、とてもカッコイイ。地味な主人公ばかりを見ているので「もっと出番がないかな!?」と期待してしまったw。

盗聴の技術は卓越しているが、あくまで一介のフリーランスで。訓練を受けたスパイではないので精神面での弱さや、脇の甘さが窺える。そんな男の情緒に危うさを感じていると案の定、バッド・エンドを迎える。よくよく振り返ると、他者から特に攻撃や実害を被った事もなく、ただの自滅だった事が興味深い。

仕事への執念が執着に変わり、不安と妄想に憑かれる。そんな人間を現実でも見かける事があるので、働き方についても考えさせられた。

どこまでが妄想か?

急激な終盤の展開は謎を残し、観るものによって解釈が変わる内容だった。私が疑問に思ったのは以下の5つ。

  1. 主人公がホテル773号室で見た(聞いた)ものは?
  2. 依頼主の死因は?
  3. 主人公の部屋の盗聴器は?
  4. 依頼主の部下であるハリソン・フォードの真意は?
  5. 盗聴した不倫カップルの会話の内容は?

ホテル773号室

(A)何も起きていかった説…主人公が盗聴した声も、バルコニーで見た人影と血も、全て彼の妄想。事件後に忍び込んで調べてても荒らされた形跡はない。その際に見たトイレから血が逆流する場面が、妄想を象徴したモノである。

(B)本当に殺人が行われた説…主人公が見た光景は現実で、事後に隠蔽工作が行われた。

依頼主の死因

(A) 交通事故説…マスコミの報道通り、交通事故で亡くなった。あるいは交通事故に見せかけて殺された。当然ホテルでは何も無かった。妻に裏切られたショックで自死した可能性も考えられる。

(B)ホテルで殺害説…上述のホテルでカップルに殺された後、死因を偽装してマスコミ等への情報工作が行われた。

主人公の自室の盗聴器

(A)存在しない説…事件後に「部屋を盗聴器で監視している」と何者かに脅された主人公。だが、プロの彼が必死になって探しても見つからない。ただのブラフの可能性もあるが、この電話自体が彼の妄想である。

(B)存在する説…主人公の気が付かない方法で仕掛けてある。考えにくいかもしれないが、劇中でボールペンに仕掛けた盗聴器に引っかかる不注意も起こしている。この場合、電話番号を知っているハリソン・フォードもカップルと共謀している事になる。

ハリソン・フォード

(A)依頼主に忠実説…事件後に主人公が依頼主の会社へ訪れて交通事故の報道に驚いていると、彼もまた驚いたような表情をしていた。依頼主に味方して不倫カップルを殺す予定だった?。

(B)不倫カップルと共謀説…主人公が依頼主へ直接テープを手渡すことを妨げようとする点が、そもそも怪しい。

盗聴テープの会話内容

(A)主人公の妄想(潜在意識)が作り出したツギハギ編集説…主人公は、広場での不倫カップルの全ての会話を録音は出来ていないと言っている。そして不明瞭な音声の復旧作業もしている。いわばツギハギ素材を編集をして作り上げたテープだと言える。以前に彼が関与した盗聴により人が殺されたトラウマを抱えているので、無自覚にそのような素材部分を採用してしまったのかもしれない。

(B)素材ママの会話テープ説…不倫カップル側が「依頼主に殺されるかも」と発言していたが、結果は依頼主を殺す側の立場だった。終盤のドンデン返しの布石になっているが、上述のハリソン・フォード共謀説を踏襲すると、盗聴されることを承知の上で、不倫カップルが会話していたことも想像できる。

上述の解釈は、(A)妄想説、(B)現実説、この2つのルートに大別できる。どちらも決定的な根拠はないので、どちらにでも解釈できるし、それが面白い。

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