ザ・ブルード/怒りのメタファー 

映画

★★★☆☆ 1979 カナダ 監督:デヴィッド・クローネンバーグ 出演:オリヴァー・リード、サマンサ・エッガー

あらすじ

幼少期の虐待が原因で神経症を患うノーラは、精神科医・ラグラン博士の治療を受けるため、郊外の施設に入院していた。しかし、ノーラの夫・フランクは、妻を隔離して面会させないラグランに不信感を抱く。そんな時、フランクの周囲で惨殺事件が発生し…。

感想

久々に”ザ・フライ(1986)”を観たくなったのだが配信に無かったため、代わりに同監督作である本作を観た。

チープで古臭さを感じるが、クラシカルなホラー演出と意外性のあるブッ飛んだ設定が新鮮で、なかなか楽しめた。ラスボスである母親の狂気じみた表情や挙動がリアルで、クリーチャーよりも怖かった。

虐待の恐ろしさ

この映画も、”子供への虐待が生む悲劇”がテーマであり、犯行の動機になっている。

幼少期に虐待を受けて精神障害を患った母は、主治医の前衛的な治療によって、怒りやストレスを身体的に具現化し、排泄する方法を得た。それにより産み出された(本当に文字通り出産)のが異形の小人達。この小人が母に代わって怒りの矛先へ復讐を実行していく。勿論その設定や動機が判明するのは後半だが。

この小人の姿は7~8歳くらいの背格好で、フード付きの服を着て顔だけ特殊メイクの奇形マスクを付けている。初めて姿を現した時はギョッとした。子供姿の殺人鬼が出る映画は他にもあるが、独特の異形な姿が目を惹く。てっきりイマジナリーな存在かと思えば実体を有しており、食事はせず背中の瘤に溜まったエネルギーが尽きると死に、性器など無い。という生態も明かになり、ますます興味を持った。しかもソレが何体もいるのだから、どれほど怒っていたのだろう。

醜い顔をした子供の姿の怪物が大人達を殺していく。その殺し方は刃物や道具を使わずに、その辺にあった物を掴んで殴りかかるという短絡的な方法だ。そんなビジュアルは「虐待を被って醜く歪んでしまった子供による復讐」そのもの。

ラストシーンでは母のような身体的変化が娘にも現れた事を匂わせている。劇中では何度も怖い体験をしても一才動揺することのない様子から、映画冒頭時点で既に、娘の心に深い傷を負っているのは確かだろう。娘が母から虐待を受けたかは定かではないが、負の連鎖は起きてしまった。

どんなに恐ろしくて醜い化け物や、どんなに残酷な殺戮シーンが出てこようとも、真に恐ろしいのは虐待だろう。

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