2003 カナダ・スペイン 監督:イザベル・コイシェ 出演:サラ・ポーリー、マーク・ラファロ ★2.5
あらすじ
幼い子供二人を持つ主人公。夫は失業中でトレーラー暮らしの貧しい生活を送っていた。体調不良のために病院を訪れて検査すると、余命わずかな末期ガンであることが宣告された…。
感想
人生の半ばまで能動的に生きなかった人間が妄想する理想的な死に方。
登場人物を死なせることで感動させる作品は嫌いだ。病気や死をプロットにした素晴らしい作品もあるが、死を安直に扱う駄作が多いからだ(特に邦画では)。そんな理由で観るのを避けていだが、知名度も評判も高い作品なので、意を決して観た。
文系か理系か、女性的な感性か男性的か、雰囲気重視かプロット重視か、視聴者の思考によって評価は別れる作品だと思う。私の感想は、まぁまぁ面白かったし、主人公を自分の身に置き換えると考えさせられる点もあったが、最期まで続く都合の良い展開が気になってしまい、皮肉な解釈へ走ってしまった。
人間の最期は美しく穏やかではない
いきなりラスト・シーンからツッコミたい。最期まで家族に病気を隠し続けて、ひっそり穏やかに逝く主人公。親しい家族を介護して最期を看取った経験を何度か持つ身からすると「そんなのあり得ない!」と強く思ってしまった。
ガンの末期状態は辛い苦しみと恐怖があり、決して一人では乗り越えられものではない。たとえ強靭な意志があっても、体力的にも物理的にも誰かの支えが必要になる。それなのに、家族が心配して声をかけても「ちょっと貧血気味なの…」で誤魔化し通せてしまうことへも強い違和感を抱いた。
作品の雰囲気を損なわないよう意図的に排除しているのだろうが、病気の痛みや苦しみを描くシーンは殆どない。だから恐怖も切迫感も感じられなくて「便利でオシャレな死だなぁ」と思ってしまった。
最初から死んでいた主人公
病院で余命宣告されてから、あっさりと運命を受け入れた主人公。きっと「生きたい」という意志がなかったのだろう。
学生時代に彼氏との間に子供が出来て、そのまま結婚。夫は仕事が無く家族はトレーラー暮らし。偏屈な母親に子供を預かってもらいながら、自身も安月給のバイトを勤しむ日々。口にはしないが不満があっただろうが、現状を変えようという意志も力もない。意志を表すことも出来ずに、ずっと我慢して流され続けてきた人生だったのだろうと推察する。
残り時間が僅かになり、やっと能動的になった主人公。「死を受け入れたことで、人生の意味や、何気ない日常の素晴らしさに主人公は気が付いた」という肯定的な感想を目にするが、私の解釈は少し異なる。
健気で愛情深いが、弱くてズルい女
「死ぬまでにやりたいことリスト」は、矛盾を孕んだ内容が人間臭くて良い。家族を愛していながらも夫以外の男性と関係を持つ展開は「いかにも女性向け映画っぽいな」と思ってしまったが、この裏切り行為によって、家族のための行動は無償の愛ではなく自分の罪悪感を払拭するためのエゴとも捉えることができた。
家族へ病気を隠した点も「心配をかけたくない」とか「気が弱くて言えない」という理由もあるが、自分に負担をかけ続け、こちらの心情を察してくれない愚鈍な夫への壮大な復讐かもしれない。
このような深読みをする私は意地が悪いのかもしれないが、さらに邪推を続ける。
映画後半で主人公宅のお隣に引っ越してきた独身女性。若くて優しく看護経験もあって主人公が体調が悪い時は子供達の面倒も見てくれるし、夫ともウマが合いそう。自分の代わりに家族を託せる人間を見つけることが出来たおかげで、主人公は安心してこの世から旅立った…。
おいおい、なんだかあまりに都合が良過ぎじゃないか?。あんな甲斐性無しを押し付けられた彼女が気の毒だろ!。
統括:一見、少女マンガのような悲劇の主人公映画に見えたが、邪推して考察すれば興味深い。
オマケ
浮気相手の男性役に、ハルクでお馴染みのマーク・ラファロが登場してビックリした。昔はイケメン枠だったんだw。
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