2020−2021 著者:ドリヤス工場 出版:小学館
あらすじ
平凡サラリーマンの下山口一郎。ひょんなことで異世界の転生したが、彼には特殊能力も何になかった。異世界でも平凡な彼は、初日から「もう帰りたい…」と呟くのだった。
感想
この作品を知ったキッカケは、長年に渡り愛聴しているラジオ番組「伊集院光 深夜の馬鹿力」内での紹介だった。ゲゲゲの鬼太郎でお馴染み”水木しげる”そっくりの画風は、懐かしつつも新鮮で、ちょっとマヌケな異世界設定と絶妙にマッチしていた。この画風がセールス・ポイントと思っていたら、内容もしっかり面白い。
設定を活かした”あるあるネタ”の連続
“異世界転生モノ”のコメディ・マンガという分類だが、この主人公はどちらかと言えば暗い性格。そして冒険や戦闘で活躍もしない。リアルで平凡な能力と感覚を持った一般人が、いわゆる中世魔法世界で生活したら、どうなるかをコミカルに描いている。
スッカリ新鮮味のなくなった異世界転生モノの作法を踏まえた上での、あるある展開への対処方法やメタ目線での皮肉が面白い。非現実なイベントが発生しても、「やれやれ、仕方ない…」という心理で受け入れて対応していく主人公の行動が笑いのポイントなのだが、作品内にボケ・ツッコミ役が不在なので、それらが淡々と過ぎていく様子が味わい深い。
「食事に訪れた店で、どのテーブルに着席しようか?」といった些細な悩みや、「サークル内での人間関係」など現実世界の”あるある”ネタを、異世界風景に持ち込むパターンも面白い。
ちゃんとクエストしている
コメディ・マンガだが、決して笑いに偏っていない。軸となるストーリーがしっかり描かれている。王道イベントもこなしつつ、中盤ではソシャゲのパロディを設定に取り入れたり、後半には敢えて異世界転生の見本のようなキャラを登場させたり、飽きが来ないような起伏があり、きっちり伏線も効かせている。とても内容の濃い全3巻である。
この「ドリヤス工場」という漫画家。ただの水木しげるのコピー作家ではなく非凡な才能を感じた。他の作品も読んでみよう。
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