12モンキーズ【タイムトラベル考察】

映画

★★☆☆☆ 1995 アメリカ 監督:テリー・ギリアム 出演:ブルース・ウィルス、マデリーン・ストー、ブラッド・ピット、デヴィッド・モース

あらすじ

1996年に発生した謎のウイルスにより人類の99%が死滅。地下に住む人間たちは原因を探るため、“12モンキーズ”という謎の言葉を手掛かりに1人の囚人ジェームズ・コールを過去へ送り出した。

感想

タイムトラベルもので面白い映画はないかと探していたところ、20年近く前に観た本作を思い出した。内容については完全に忘れていたため、新鮮な気持ちで見直す事ができた。しかし、面白くはなかった。だから忘れていたのだろう…。

ディストピア感が漂う映画なのだが、本作が作られた90年代の世紀末感も感じられて、なんだか当時の雰囲気が懐かしくなった。ブラッド・ピットが演じる狂人を見て「こんな感じの狂人が出てくる映画、当時いっぱいあったなー」なんて思った。未来の地下施設のセットも今となればレトロ・フューチャーのように感じる。

ストーリーはやや難解なので、雰囲気や美術セットで楽しませる作品だと思う。私のセンスには合わなかったが、市街地にクマやトラ、ゾウなどの動物達が現れる映像は面白かった。あと、私の好きなデヴィッド・モースが真犯人役で出ていたので、驚くと共に嬉しかった。

タイムトラベル考察

シンプルに面白くないと思った理由の1つは、タイムトラベル映画でありながら、その醍醐味である歴史の改変や分岐などは発生せず、すでに決定された一本道の歴史を辿るからである。

この映画の世界のルールでは、「未来から来た人間が過去で何をしようとも、歴史は改変されない(それすら既に起こる事が決まっていることである)」なのだ。いわゆる「卵が先か、鶏が先か」である。この点を理解していないと、いまいちピンと来ないまま視聴が終わってしまうだろう。

最後に殺人ウイルスを撒いた真犯人が分かるが、阻止は出来ずに主人公や世界はバッドエンドを迎える。これには少しモヤっとするが、よくよく考えて見れば、主人公の囚人は歴史を改変するために未来から過去に送り込まれた訳ではなく、目的はあくまで調査なので、彼は与えられた使命をしっかり果たしている。ラストシーンの飛行機内のウイルス犯人の隣に、囚人のボスである未来の女性科学者が現れるので、この点は間違いないだろう。きっと、この科学者も自らウイルスを調査しに来ただけで、過去を改編しに来た訳ではないだろう。

タイムトラベルのルール

  • 未来世界で開発したタイムマシンを使って過去に送ることが出来る。
  • タイムマシンの被験者は肉体ごと移動するが、裸で送られる。
  • 未来へ戻る方法は、未来での監視者による強制帰還?(詳細不明)。
  • 間違った時代に送られることもある。
  • 過去へ送り込まれた者は、歯に仕込まれた追跡装置で監視されている(主人公の妄想かも)。

未来へ戻る方法・条件がよく分からなかった。最初は一定時間の経過すると強制的に帰還すると思ったが、主人公が捕まったり捕まりそうになると未来に戻るし、終盤で追跡装置による監視の話が出てくるので、未来で監視している者の手で強制帰還される・という考えに至った。

前述の通り、未来人が過去で何か行動を起こしても、その行動が既に行われた未来から来ているため、過去には何も影響を及ぼさない。

つまりはタイム・パラドクスも起きないのだが、このルールを採用している映画は珍しいかも。

時系列の整理

私なりにまとめた時系列図が以下の通り。

過去から送られた電話や落書きを参考に未来人は調査を進めて主人公を過去に送るが、それらの手掛かりは主人公の影響を受けたヒロインの行動によってミスリードが起きていた事が分かる。主人公のやっている事に意味が無さそうにも思えるが、殺人ウイルスの犯人の正体を探り当てた結果、ジョーンズが最後に現れたと思う。しかし、どうやって未来へ情報を送っていたのだろう?。ピータースが犯人と分かるのは、未来へ電話した後の事だし、追跡装置も抜歯で除去済みのはずである。

本作で最も解釈に迷うのは、ホセの役割、ボブと呼ぶ声、この2つ。

ホセの役割

初めから主人公と隣の監獄に居たし、1917年の戦場にも現れていた。彼は未来科学者たちの命令を受けたコールの監視役だったと思われる。ひょっとして、私が気が付かない場面にもホセが映り込んでいるのかもしれない。

クライマックスでは空港に現れ主人公へ銃を渡し、「命令を果たせ!」と迫った。二人の会話内容は、何度見返しても理解出来ない。命令の内容も、銃の標的も不明。この辺りは考えても明確な答えは出なさそう。

ただ、ホセが最後に現れた目的は、コールが警備員に射殺されるように仕向けるためだと思う。その動機は目的を放棄した者への粛清、あるいは歴史を変えさせないためと考える。標的を告げなかったのも、銃を持ちながら空港内をウロウロさせるだけで良かったのだと考えた。

ボブと呼びかける声

主人公に語りかける声は妄想か?。それとも実在する誰かなのか?。私は主人公の妄想、つまりは深層心理の声であると思う。

主人公は1990年で、精神病棟に強制収容させられる。そこでは未来から来たという自分の主張は、完全に否定され薬漬けにさせられる。病棟内でタキシード姿の入院患者から、こんな話を聞く。「俺は惑星オゴに旅をしている…。俺にとって全てリアルだが、実際は俺の想像した世界だ。想像により辛い現実から逃避できる。オゴへの旅を辞めたら俺は”正常”。君は?(途中要約)」。そして、ブラッドピットは「見たいTVがあるのに放送後に予約を入れるバカがいる」と語っていたが、これは”事件が起きてから過去に戻ってもムダだ”という暗喩だと思う。病院を脱走する際にはエレベータホールで、未来の地下刑務所にいた看守の姿が幻覚として現れる。

1990年から帰還後、自分のことをボブと呼ぶ男の声が頭の中に聞こえ始める。その声は自身のことを、隣の独房に居る者か、未来の科学者達から依頼を受けた監視役か、あるいは主人公の妄想か、確かめる方法は無いと語っている。タイムトラベルによる負荷もあるだろうが、この精神病棟内での体験によって「自分の記憶は妄想かもしれない」「常に監視されているの」という考えが主人公に芽生え、謎の声が聞こえ始めたと考える。

この声の主の次の登場は、1996年にキャサリンを連れて12モンキーズを探している途中に浮浪者の姿で現れた。主人公に向かって「歯に仕込まれた追跡装置で監視しているから、逃げられないぞ」と忠告してくる。任務を遂行しようとしている主人公に対して「逃げてもムダ」と言っているのは、この時点で、主人公の心には任務から逃れたいという願望や迷いが生じていたからだと考える。

1996年から戻った主人公は、科学者達に向かって「この未来の世界こそ妄想だと」と言う。暴れるので鎮静剤で眠らされていると、ボブと呼ぶ声で目が覚める。声の主は、1996年の浮浪者は自分ではないと否定する。しかし、恩赦を与えられ解放されたはずの主人公へ、地上で生活しキャサリンと結ばれる願望を煽り、また1996年へ行くように促す。この声の内容は、主人公の願望や迷いが顕著になってきた結果だと考える。

1996年に単独で12モンキーズを探しているキャサリンの前に浮浪者が再び現れる。ところが、この時は未来のことや主人公の事も覚えていない様子だ。1度目の登場時の会話内容は主人公の妄想によるものなので、浮浪者側は覚えていないし、キャサリンが知っているのは後から主人公に捕捉説明を聞いていたからと思われる。1度目の登場時のキャサリンは浮浪者を煙たがり、ろくに話を聞いている様子はない。

その後にキャサリンの前に現れた主人公は以前と雰囲気は変わっており、「未来の出来事は妄想であり、自分は異常者である」と主張している。しかしながら、その直後のホテルでは声の主の情報を信じて、追跡装置が仕込まれた(と思っている)歯を自ら抜いた。抜く(未来の追跡装置を外す)行為は、未来世界は妄想だとする考えと矛盾するが、キャサリンとの時間を壊されたくないという動機は共通するので納得できる。

主人公は、映画館で変装したキャサリンの姿を見て、子供時代に空港で見た女性と同一人物である事に気が付き、恐れを感じていた。この時に自分の死を予感し、空港に着いてから確信へ変わり怯えていく。最後にボブと呼ぶ声が聞こえたのは、空港のトイレ内で「ココには留まれない。元の時点に戻れ」と主人公に促した。これは今から訪れるであろう自分の死から逃れたいという心理だと考える。その後にホセと問答している時、エスカレーターに地下刑務所の看守の姿が現れる。監視からは逃れられないという諦めと覚悟による幻覚と考える。

以上が、「ボブと呼ぶ声」に私の考察だが、他の解釈も可能だろうとは思う。

映画自体は面白くなかったが、考察は結構楽しめた。

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