★★★☆☆ 2009 アメリカ 監督:F・ゲイリー・グレイス 出演:ジェイミー・フォックス、ジェラルド・バトラー
あらすじ
自宅を暴漢に襲われ妻子を奪われた男。逮捕された犯人は司法取引によって、大幅に減刑されてしまった。そして10年後、被害者の男による復讐が始まった…。
感想
“交渉人”や、”ストレイト・アウタ・コンプトン”と同じ監督の作品だったので興味を持って鑑賞した。
前半はとても面白く、展開が早く内容も濃い。開始45分ごろまでは「これは傑作に出会ったかも!」と思った。ところが、後半から大失速して凡作の印象になった。
ジェラルド・バトラー
この俳優の事は余り知らなくて、以前に見た映画のせいで、ただのマッチョ俳優と思っていた。しかし、本作で評価を改めた。家族を亡くして悲嘆にくれながら裁判を迎える表情は見事。復讐者として現れた姿は、まるで本当に10年経ったかのような変化ぶり。他の出演作も見てみようと思う。
ところで、逮捕される前に自ら全裸になる必要があったのだろうか?。警察に無抵抗の意思を表すためと、頭脳だけではく身体も鍛えた事を視聴者へアピールしたいのだろうが、ちょっとヤリ過ぎではw。
濃密な展開の前半
家族を襲った殺人犯への復讐は、映画開始から30分で早々に完了。これだけで映画1本作れそうだが、本作はこの後からが本番。前半に無駄なシーンは1つも無く、かなり駆け足で話が進む。一方、後半の展開のために必要な情報も十分に盛り込まれていた。「この先、どんな展開になるのだろう?」とワクワクしながら見た。
バトラーは技術者だが法律も学んでいる事を示唆していたし、逮捕後に裁判が始まると彼は法廷の場で司法制度の欠陥を主張する。「後半は主演2名の知能戦による法廷劇か?、これは期待できそう」と思ってたら、予想外の展開へ。女性判事の頭が吹き飛んだシーンは声を出して驚いた。
チート過ぎる復讐犯
復讐犯(ジェラルド)は捕まり刑務所に居るはずだが、過去の司法取引に加担した者が次々に殺されていく。一体どうやって!?。
という謎解き編が後半の展開である。ここからは血飛沫や爆破などの派手なシーンが増えていき、ミサイルまで飛び出してくるので、なんだか違う映画を見ている気分になった。
刑務所に居ながら次々と事件を起こす復讐犯。他に協力者は居ないし、スパイ活動の経歴を持ち、遠隔による暗殺が得意だった過去も発覚し、天才チートキャラに変貌。まるでハンニバル・レクターのような無双ぶり。
ところが種を明かせば、復讐を計画していた10年の間、自分の所有する敷地から刑務所の独房へ通じるトンネルを掘っていて、夜中にコソコソ抜け出していた事が判明。これには盛大にズッコケた。別の刑務所に入れられたら、どうするつもりだったのだろう?。他にもツッコミ所の多い計画で、急速に萎えてしまった。
残念な終決
復讐犯は、家族を殺した殺人犯を減刑させてしまった”現代の司法制度”への反抗だった。しかし、計画は失敗に終わり最後は自滅したので「完全なる報復」という邦題は誤解を生むタイトルだった。
中盤までは復讐犯側に感情移入していたので、この”報復”が成就する事を期待した。ところが報復の対象がどんどん広がり、終盤はただの傲慢な無差別爆破テロリストに成り下ってしまった。司法制度に立つ向かう姿に崇高さを感じていたのに、裏切られたようで残念。罪悪感との葛藤や苦しみを吐露する姿を、もう少し見せてくれれば感情移入も保てたのに。
もう一人の主役である検事(ジェイミー)との対立軸も、盛り上がりに欠けたまま終わってしまった。検事なのだから法廷や言論で戦って欲しかった。最終決着についても「復讐犯の裏をかき罠にハメて爆死させる」というハリウッドらしい大味な結末。
この事件に懲りた検事は、自分への過信と仕事への姿勢を改めた。という締め方で幕を下ろしたが、復讐犯の壮大な計画と被害の大きさから比べると、随分とコスパの悪い報復だったと感じてしまった。
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