★★★★★ 2012 アメリカ 監督:ライアン・ジョンソン 出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ブルース・ウィルス、エミリー・ブラント、ポール・ダノ、ノア・セガン、ジェフ・ダニエルズ
あらすじ
2044年。犯罪組織が2074年からタイムマシンで送り込んだ者を撃ち殺す処刑人“ルーパー”として生きるジョー。送られてきた新たな標的に狙いを定めるが、その人物は30年後の自分だった。逃げ出した未来の自分を追ううちに、彼は自身の思わぬ宿命を知っていく。
感想
公開時に劇場で観たが、考察のために再鑑賞。当時は良く出来た設定だと思ったが、改めて見返すとタイムトラベルについての矛盾が気になってしまった。しかし、映画としては大変面白い。タイムトラベルもの映画に”超能力モノ”のエッセンスも加えているのが、良いスパイスになっている。ジョセフGとブルースWが同一人物なる設定は「チョット無理があるんじゃない?」と鑑賞前は思っていたが、30年の経過シーンでブルースWの自虐的なカットによって納得させられた。
タイムトラベル考察
本作のタイムトラベル設定で認識しておくポイントは、「”親殺しのバラドクス”は黙認する」という事である。

劇中でセスが、未来から転送された自分を処刑できず、自らが組織に始末された件がある。この時の描写では、ヤング・セスの肉体の一部を切断すると、それに連動してオールド・セスの肉体も喪失する。そして、ヤング・セスが死亡すると、オールド・セスの肉体が消滅した。セスの例ではないが、従来の過去と異なった行動をする事によって、未来から来た者の記憶も書き換えられる描写がある。
現在の自分に起きる事象は、未来から転送された自分にも因果を及ぼす。という法則になる。つまり、未来を予知して歴史改変が可能であり、その法則を利用してセスは処刑された。そうすると「現代で死んでいるのならば、そもそも未来から転送されるハズない」という矛盾が生じる。しかし、タイムトラベルした事実は残り続けたまま、ストーリー(歴史)は進む。
この法則は物語の結末にも繋がる重要なポイントなのだが、並行世界論で考察しても解決できない。未来から来た人間の立場で言えば、過去の自分は並行世界(分岐した世界)に住む別人なのだから、肉体や記憶が連動することは無いはずである。
このパラドクスは、BTTFにおいて過去世界で両親の歴史を改変した事により肉体が消えそうになったマーティーの例と同類だ。つまりは「細かい所は気にせず、エンタメを享受せよ」という事だろう。
タイムトラベルのルール
- 未来世界で開発したタイムマシンを使って人間を過去へ送ることが出来る。
- 未来世界ではタイムマシンの使用は違法だが、犯罪組織が死体処理のために被処刑者を現代へ転送してくる。
- 転送された被処刑者は、現代のルーパーという組織によって処刑及び死体を処理される。
- 現代の人間に歴史改変が起きると、未来から来た人間に影響を及ぼす(前述の通り)
本作のタイムマシンは限定的な使い方で、物語の主軸となる装置ではなく、設定の一部に過ぎない。

時系列の整理
私なりにまとめた時系列図が以下の通り。

劇中で少なくとも3つのタイムラインが確認できる。
元?のタイムライン
ヤング・ジョーがオールド・ジョーの処刑に失敗した後、劇中の時間を少し巻き戻してから別のタイムラインの出来事が描かれる。オールド・ジョーにとっての過去回想のようなもので、彼が未来から転送された理由が分かる。このタイムラインでは、ヤング・ジョーにより処刑されループは閉じる。
本編ストーリーのタイムライン
本編はオールド・ジョーの処刑に失敗した出来事が描かれる。処刑の失敗が分岐点かと思うが、真の分岐点は2074年である。本編のオールドジョーは組織の捕縛を脱出し、妻の復讐のために自ら過去へ赴いた。元のラインで覆面を被って転送していたが、本編で覆面はせずに顔を見せる事でヤング・ジョーを油断させていた。
オールド・ジョーは組織の追跡をかわし、幼年期のレインメーカー(シド)を追い詰めるも、ヤング・ジョーの自死によって消滅した。母を失う事を回避したシドは、レインメーカーにはならない事を示唆する結末だった。「レインメーカーが現れなければルーパーや未来の犯罪組織も存在せず、そもそもタイムトラベルが起きない」というパラドクスに陥るが、前述の通り細かい事は気にしない方が良い。
ヤング・ジョーが予知・回避したタイムライン
オールド・ジョーの追跡からシドを守るためサラが死亡。母を亡くしたシドは怒りと孤独で悪の道へ進む。ヤング・ジョーはこの未来を予知し、自死することで回避した。ヤング・ジョーはなぜ、未来を予知出来たのか?。映画序盤で「2044年は人口の10%が念力を有している」という設定が語られている。レインメーカーも強力な念力者だった。そのような世界設定なので、ジョーが予知能力を持っていても不思議ではない。さらに言えば、その予知能力のおかげでオールド・ジョーは、処刑されるループから脱する事が出来たのでは?と解釈した。


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