★★★★☆ 2023 アメリカ・イギリス・ポーランド合作 監督: ジョナサン・グレイザー 出演:クリスティアン・フリーデル、サンドラ・ヒュラー
公式サイト: 映画『関心領域』公式サイト | ハピネットファントム・スタジオ
あらすじ
アウシュヴィッツ強制収容所の隣で、穏やかで幸福な生活を送る収容所所長ルドルフ・ヘスとその家族。美しい庭、子供たちの笑い声、豊かな食卓……壁一枚隔てた向こう側から絶えず聞こえる「音」に、彼らは一切の関心を向けない。
感想・考察
公開当時、劇場で鑑賞すれば良かったと後悔した。その理由は音。
ホロコーストを扱った反戦映画だが、見せ方が斬新。直接的に酷いシーンは一才無いが、主人公家族の日常風景の中に、銃声や悲鳴がウッスラと聞こえる。清潔な屋敷や美しい庭の映像とのギャップが、不穏な雰囲気を出している。この演出は劇場で味わいたかった。
印象的な映像が続く
この作品はストーリー性は皆無だが、映像で視聴者の関心を惹き続ける。
最も印象的なのは、暗視スコープのような画面。何十年も前の歴史の話を見ている中、急に現代的な映像に切り替わるので、かなり戸惑った。
意外性のある映像表現は、他にも随所に現れる。
- 開始直後から数分間続く、真っ暗な画面。
- 美しい花々の直後、血のような赤に覆われる画面。
- 現代のアウシュビッツ博物館
- 廊下や階段の暗闇
ラストの階段シーンは、主人公が地獄へ続く階段を、自ら進んで行くように見えた。
潔癖な夫婦
主人公家族の邸宅は、常に清潔で整頓されており、大家族が住むような生活感はまるで無い。敷地内の庭も手入れが行き届いて、どこを切り取っても美しい光景。
ユダヤ人の遺骨や遺灰が流れる川で遊んだ子供達の身体を(眼球までも)徹底的に洗浄する。床にこぼれている水を発見した妻は、使用人を呼んで怒鳴りつける。夫は地下で情婦と事を終えたあと、執拗に股間を洗う。
まるで潔癖症のような彼らの行動は、不安や恐怖によって引き起こされるモノで、優雅な生活を送る彼らも見えないストレス下にあるのだと感じた。
ブラック企業のサラリーマンのような軍人
仕事に真面目で優秀である一方、家庭では優しいパパで、妻には勝てない夫。転勤が決まったが引っ越しを断られて単身赴任を依願し、束の間の息抜きに性風俗を利用する。その様子は、まるで現代日本のサラリーマンのように見えて、親近感すら湧いてしまう。
夜中にウマへ話しかけるシーンがある。仕事も家庭も有能だが、彼の弱音や本音を聞いてくれる相手はウマしか居ないのだ。そんな彼の心境は、痛いほど分かる。
極めて被人道的な行為をしているが、彼の居る環境と価値観の中で、彼なりに頑張っていたのではないか?。と思えてしまう。ラストの暗い階段を降りながら吐き気を催す様子は、終電で時折見かける”限界ギリギリの人”のようで、同情した。
地獄すらも”無関心”
「感心領域」というタイトルは、映画のテーマそのもの。
多くの人間は、自分が関心のあるコト(領域)には熱心だが、外のコトには無関心だ。外国で戦争が起きようとも、職場の同僚が離婚しようとも、所詮は他人事で当事者意識はなかなか持てない。
劇中の舞台である主人公家族が住む清潔で美しい邸宅が正に象徴で、妻の”関心領域”だ。夫の仕事や、外の世界で何が起きているのか、まるで興味はなく美容や自宅の維持に執着している。すぐ隣の処刑場で起きているコトには、意識的にシャットアウトしているのではなく、本当に関心が無いように私には見えた。家族らが眠れない夜を過ごす中でも、妻だけは熟睡しているのは印象的。置き手紙を残して黙って出て行った祖母(妻の母)は、きっと異様な状況に耐えられなかったのだろう。
一方、夫の”関心領域”は仕事だ。彼は仕事熱心な技術者で、効率的な処刑方法を思案している。そして結果を出して、組織からも評価されている様子だ。良心の呵責もあるようだが、とても積極的に仕事に取り組んでいる。
そんな彼の”感心領域”の結果であるホロコーストも、多くの人間にとっては関心の外だ。それを象徴するのが、ラストシーンに登場したアウシュビッツ博物館の清掃スタッフだ。歴史的な重大事件に関する品々が展示されているが、毎日の仕事として接する清掃スタッフは、それらに関心は無く黙々と清掃作業を進める。その姿は、当時あの邸宅に住んでいた当家族や使用人達とも重なる。
面白いと思ったポイント
この作品は、直接的で明確な描写はせず、視聴者の洞察力に任せている部分が多い。
- 邸宅のすぐ横にある収容所で行われている出来事
- 川で遊んだ子供達の身体を徹底的に洗う理由
- 祖母が黙って出て行った理由
- 夜中に少女がリンゴを埋める理由
- 現代のアウシュビッツ博物館のシーンの意味
- 夫の突然の吐き気
等々、すぐに察する事もあれば、調べたり考えなければ分からない事まで様々。この作品に”関心”が及ばなければ、きっと意味不明で退屈に思うだろう。つまり、このような演出・構成自体が、前述のタイトルとテーマと重なり、意図したことならば実にお見事だ。
私が最も面白いと思った点は、ホロコースト映画でありながら加害者であるナチス側の夫に同情が向くよう、ほのかに描いているからだ。この作品からは、”戦争の悲惨さ”よりも、”仕事と家庭も大切にしたい男性の生き辛さ”を強く感じた。





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