★★★★★ 公開: 2020年 制作国: アメリカ・イギリス 監督: クリストファー・ノーラン 出演: ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビキ、ケネス・ブラナー、アーロン・テイラー=ジョンソン、ヒメーシュ・パテル、クレマンス・ポエジー
公式サイト: https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html
※本記事は作品をより楽しむために作中の情報を整理・深掘りした考察記事です。ネタバレ全開を前提とし、独自の解釈や仮説(時には誤解も)を多分に含むので、、ご承知おきの上お読み下さい。

あらすじ
第3次世界大戦を防ぐという極秘任務を課せられた名もなきエージェントは、「時間の逆行」を可能にした未来からの敵との戦いへと身を投じていく…。
感想
クリストファー・ノーランの監督が時間逆行を描く。これは期待せずにはいられない作品だ。私も公開当時に劇場で鑑賞して、とても満足のいく作品だった。
時空を移動する作品は数あれど、「時間を逆行する」という概念や形態は非常に稀で、それをきちんと映像化したのはお見事。空港内の格闘シーンや、カーチェイスは何度もリピートしてしまう。
ところが、面白いけど情報量が多いため、お腹一杯過ぎてオカワリする気が起きないのもノーラン監督作の特徴。実は最近まで再鑑賞する気には至らなかったが、本記事作成のために内容を整理して見直すと新たな”気づき”もあり、以前より面白く感じた。
その”気づき”とは、伏線やネタ等ではなく「イデオロギー」だ。タイトルであり組織名でもある「TENET」は、主義、主張、教義、信条、原則を意味する名詞だ。主人公たちTENETは”人理滅亡の阻止”のために命懸けで奮闘するが、「無知は武器!」を掲げるメンバー達の行動や考えを冷静に見ると、滑稽に思えるほど頑なで、TENETの名前通り強いイデオロギーを感じた。
そうすると映画自体の見え方も少し変わる。本作は新旧の人類同士の戦いだが、身近に例えると以下の通り。どちらか一方が正しいとは言い切れない。
厳格な原理主義を貫く保守派 VS リスクを承知で可能性を模索する革命派
定年まで波風たてず思考停止で働き続ける現役社畜 VS 老害達のツケを負わされたくない新世代
背景情報と大きな時系列
とても緻密に練られた作品のため、ついつい詳細な時系列や設定を深掘りしたくなるが、「時間逆行」に纏わる壮大なドラマを理解して楽しむために、まず劇中の背景情報を整理した

主人公の敵は「未来の人類」
数百年後の地球は、深刻な環境汚染が進み人類は滅亡寸前。そこで一部の未来人達は、ある計画を実行した。その内容は、過去の時代まで遡って環境汚染が進む原因を除去することが目的で、過去の時代とは「劇中の現代」、原因の除去とは「人類の滅亡」だった。[現代の人類が滅亡したら、未来人も消滅してしまわないか?]という矛盾を孕む、正に一か八かの賭けであるが、他の手段を選べないほど未来は危機的状況にあった。
人類を滅亡させる手段に、2つの未来のテクノロジーを用いた。1つ目は「時間逆行装置」で、これを使えば過去へ人や物を送り届けることができる。2つ目は「アルゴリズム」と呼ばれる装置で、これを使えば世界全体の時間を逆行させる事ができ、その結果に生じる”物質の対消滅”現象によって人類を消滅できる。つまり、アルゴリズムを過去へ送り込み起動させる。そのような計画だった。
ところが「アルゴリズム」の開発者は、あまりにも恐ろしい装置と計画であると感じ、計画の実行を妨げた。秘密裏に「アルゴリズム」を9つのパーツに分解し、時間逆行装置を用いて過去の世界各地へ転送し隠匿した。設計図や開発技術も抹消し、自らの命を断った。[なぜアルゴリズムは破壊せずに隠匿したのか?]という疑問が浮かぶが、例えば、破壊しても復元できてしまう。等の何らかの理由があったのだろう。
開発者に裏切られた未来人だったが、過去の歴史や記録の中から9つ全てのパーツの隠し場所を探り当てた。しかし、その場所は世界各地の核兵器保有国の厳重な軍事施設の中だったため、パーツの奪還は容易ではない。そこで未来人は、ある男に白羽の矢を立て、計画の実行を促した。
セイターの動機は「金とエゴと恨み節」
その男が現代の敵役である”セイター”。彼はソ連の秘密都市「スタルスク12」に生まれ、貧しい少年時代には放射能汚染された街で核廃棄物の回収作業に従事していた。その作業中に「未来人からのタイムカプセル」を見つけると、以降は多額の報酬と資金を受け取りながら、未来人の指示に従いアルゴリズムのパーツを集める活動を続けた。
「未来人からのタイムカプセル」をセイターが見つけたのは偶然ではない。未来人は歴史の記録の中から最も適した人材と時代を選び、セイターの元へ届くように逆算して未来から送っていた。セイターの強欲で強引な性格、豊富な資金、冷戦終了時の混乱、などによって計画は順調に進み、全てのパーツが揃ったらアルゴリズムを起動させて人類滅亡させる段取りを整えていた。
貧しい生い立ちの彼は、未来人から与えられた指示を好機と捉え、従うことで富と力を手中にする。極度のエゴイストでありながら自らの命も脅かす「人類滅亡計画」に加担する理由は、放射能の影響による末期癌で自分の死期を悟っているためだ。「自分が死ぬ時には、全人類を道連れに心中してやろう」と考える迷惑極まりない人物で、彼の心臓が停止すると未来人へアルゴリズムの保管場所を伝達するよう設定している。
人類滅亡計画を阻止する秘密組織『TENET』

TENETは近い未来に結成する組織で、劇中本編の任務を終えた主人公が立ち上げ、ボスに就く。前述の未来人の計画を阻止するために人材育成、情報収集、資金調達、設備投資、などの準備をして、それらを過去へ送り込む。
現代(劇中本編)で活動中の構成員の多くは、現代でスカウトされた者と思われる。組織上層部の立場にある指揮官アイブス、武器商人マヒア、等は、ボス(未来の主人公)の司令で動いているが、その正体は知らない。
しかし、ニールだけは時間逆行装置を用いて未来から現代へ派遣された人間で、ボス=主人公という事実を知っている。彼は未来でボスの右腕的な存在で、厚い友情関係も築いている。[彼はキャットとセイターの息子が成長した姿では?]という考察も囁かれているが、そのように解釈できる素地は充分ある。
劇中の最終決戦やカーチェイスにおいて、過去と未来からの「時間の挟撃作戦」が展開されるが、現代(劇中本編)で活動するための準備計画を含めると、ニールの最後の言葉通り「壮大な挟撃作戦」は行われていると言える。
劇中内での主人公の目的と行動
本作は難解映画と呼ばれるが、タイムトラベル好きならば初見で6〜7割程度は理解できることだろう。しかしながら、主人公を取り巻く状況は刻々と変わるため、彼がどんな目的でなんのための行動をしているのか、分かり難い。
劇中本編では一体ナニが起きているのか?。その中で主人公はナニをしているのか?。
それらを理解し易くするために、劇中の主人公の足跡を辿りながら、物語のプロットごとに整理した。

[1] オペラハウス襲撃
- 出来事:ウクライナ・キエフで公演中のオペラハウスにテロリストが襲撃する事件が発生。ウクライナ警察が鎮圧活動をする中、主人公はアメリカCIA職員としての任務を遂行していた。
- 主人公の目的:”あるモノ”を入手するためにウクライナ高官として潜入中の同僚スパイが暗殺計画の標的になっているため、彼を救出しようとした。ところ襲撃現場の様子から、只のテロ事件や暗殺計画ではない事に気づき始める。
- 主人公の成果:機転を効かせて対応したが、失敗して何者かに捕まる。拷問による自白を避けるため、CIAが用意した薬を飲んで自死を図る。
- ポイント1:この冒頭シーンが本作で最も難解なポイントである。最低限として「主人公がTENETに加入するキッカケになる」「ニール(赤い紐の男)と”逆行弾”の登場する」「あるモノ(プルトニウム=アルゴリズムのパーツ)を巡り、秘密裏に争いが起きている」という事がさえ認識しておけば良いイベントだ。
- ポイント2:救出したスパイの生死は、このプロット終了時点では不明。一度は手に入れたプルトニウム(アルゴリズム)の行方も、この時点では不明。

[2] TENET加入
- 出来事:主人公は目を覚ます。自死の薬は偽物で、拷問も次の任務への適正を図るためテストだった事を、CIAの上官フェイから告げられる。とある施設に移動して「時間の逆行」について知る。
- 主人公の目的:CIA職員としての自分は死亡したことになったので、新たな任務・役割に就くことにする。しかし任務内容は明かされないため、まずは「どんな危機に直面して、ナニをしなければならないのか?」を探し始める。
- 主人公の成果:将来、第3次世界大戦が起きることを知り、その残骸である未来から届いた”逆行弾”について調べることにする。
- ポイント1:CIA内にもTENETの構成員が入り込んでいる事が分かる。また、主人公を捕らえて拷問していた人物もTENET(あるいはCIA)側の人間だったと分かる。
- ポイント2:逆行銃と弾丸が登場し、主人公を通じて視聴者へ”逆行”の概念について解説するシーンとなっている。科学者の説明も所詮は屁理屈なので、何となく分かれば良い。「考えるな、感じろ(Don’t try to understand it. Feel it.)」である。
[3] ムンバイ侵入
- 出来事:ムンバイにて武器商人プリヤから、逆行弾の出所とセイターの情報を聞く。
- 主人公の目的:逆行弾の金属部がインド製だったことを突き止めたので、その出所を探りたい。
- 主人公の成果:プリヤから弾丸はセイターへ売った物だと聞き、彼に近づくための協力を取り付ける。
- ポイント1:これ以降から、主人公の目的は次の段階へ進む。セイターがどうやって逆行弾の作るのか?、どうやって未来との交信方法するのか?、などを調べることにする。
- ポイント2:プリヤへの仲介役としてニールが登場。初対面だが主人公の飲み物の趣味を知っている。
- ポイント3:セイターは油田とプルトニウムで大儲けしている事が分かる。
- ポイント4:この時点でプリヤはTENETの一員であることはわからない。

[4] ロンドン面会
- 出来事:セイターの住むロンドンに行き、協力者からセイターと妻の情報を聞く。
- 主人公の目的:プリヤから紹介されたマイケル・クロズリー卿に会い、セイターへ近づく方法を聞きたい。
- 主人公の成果:セイターの妻の情報を入手。さらには彼女を協力させるための材料(弱み=絵画の贋作)も入手。
- ポイント1:セイターは英国諜報部にも通じており、金の力で支配階級に進出している事が分かる。
- ポイント2:セイターの出身であるソ連の秘密都市スタルスク12の存在が明らかになる。
[5] キャット接近
- 出来事:キャットを訪ねて一度は協力を断られるが、複数人のセイターの部下を一人で撃退する強さを見せつけ、彼女の気を変えさせる。
- 主人公の目的:キャットにセイターへの仲介を頼みたい。
- 主人公の成果:キャットの弱みを解決(贋作を処分)することを条件に、彼女に仲介の約束を取り付ける。
- ポイント1:ゴヤの贋作は2点あり。1つ目はクロズリー卿が入手済み主人公に渡される。2つ目はセイターが所有し、贋作と知りながら競売へかけた妻への脅迫材料にしている。なお、本物は登場しない。
- ポイント2:ベトナムでの船上のエピソードがキャットから語られるが、映画終盤で真相が分かる。

[6] 空港襲撃
- 出来事:空港施設に貨物機を追突させ、そのドサクサに紛れて空港内の厳重保管エリアから贋作を盗もうとする。しかし贋作は見つからなかった。
- 主人公の目的:保管庫からセイターの所有するゴヤの贋作を奪いたい。それと併せて保管エリアの奥にセイターが隠してある”ナニカ(主人公はプルトニウムと推測)”を探りたい。
- 主人公の成果:ゴヤの贋作もプルトニウムも見つからず、計画は失敗した。
- ポイント1:保管エリアの奥は時間逆行装置が設けてあり、そこから現れたのは未来から逆行してきた主人公自身。
- ポイント2:ニールは正体に気付いて未来の主人公を逃すが、主人公には「始末した」と嘘を吐いた。その理由は劇中で語られる「無知は武器」という考え方からだと推測する。
- ポイント3:空港襲撃直後の主人公はニールへ”時間逆行”について語り出すが、ニールは知らない(信じない)フリをする。この理由もやはり「無知は武器」。

[7] プリヤ再会
- 出来事:ムンバイに戻り、武器商人プリヤと再会する。
- 主人公の目的:弾丸や絵を追っていたが、とても大きな危機が迫っていると感じたため、自分が行っている任務の真の目的を知りたくなった。
- 主人公の成果:セイターを殺さずに彼の目的を調べることが任務だと明かされる。
- ポイント1:オペラハウスあったプルトニウム(アルゴリズム)はウクライナ保安庁が保管している事が分かる。
- ポイント2:単なる武器商人だったプリヤが、重要人物といことが分かる。彼女は未来から攻撃されることや、セイターが現代で時間逆行装置を作っていることを知っているが、セイターの目的(攻撃方法)までは知らない。もしくは本当は知っているが、「無知は武器」の精神で主人公には隠しているのかもしれない。
[8] セイター接触
[8] セイター接触
- 出来事:空港で贋作の処分は失敗したが、キャットには成功したと偽り、セイターを紹介してもらう。キャットがセイターを殺そうと海へ落とすが、主人公は彼を助け、ビジネスの話を持ちかける
- 主人公の目的:セイターの目的を調べたい。
- 主人公の成果:セイターの命を助けたことで彼に近づくことに成功。さらに近づくために商談(ウクライナ保安庁にあるプルトニウムを盗みセイターに売る)の提案にも成功。
- ポイント1:セイター自ら出自を語る際、未来人との初接触の様子が示唆される。
- ポイント2:セイターが未来から送られた金塊(報酬と軍資金)を入手する様子が描かれる。
- ポイント3:オスロ空港の保管庫にあった贋作は、事件前に移動していた事が分かり、セイターが事件を予知していたことが窺える。
[9] プルトニウム強奪
- 出来事:ウクライナ側の輸送車両を襲いプルトニウムの強奪に成功するが、その直後から奇天烈なカーチェイスシーンが始まる。プルトニウムを横取りしようとしたセイターに襲われ、キャットは逆行弾で重傷を負う。
- 主人公の目的:セイターに近づくビジネスのためプルトニウムを入手する。はずだったが事態が急変した。
- 主人公の成果:当初の目的は失敗。初の時間逆行を試み、セイターより先にプルトニウムを回収しようとしたが、それも失敗。
- ポイント1:ウクライナから奪った物の中身を見て、皆がプルトニウムと呼んでいるモノは、別の何か(アルゴリズム)である事に主人公は気づく。
- ポイント2:ニールに沢山の味方が現れて、彼らはプリヤの特殊部隊だと明かされる。
- ポイント3:カーチェイスの際にセイターへ渡したプルトニウムのケースは空っぽ。主人公はセイターを騙して時間稼ぎを試みた。そしてセイターは時間逆行して、ケースの中身を探しに向かい、手に入れた。
- ポイント4:やはりセイターは主人公らの行動を予知していた事がわかる。それにより「時間の挟撃」が可能となった。

[10] キャット救命
- 出来事:主人公とニール、キャットは時間逆行の状態にいながら、1週間前のオスロ空港へ向かった。
- 主人公の目的:キャットの負った逆行弾による傷は、逆行時間の中でしか治癒しない。キャットを治療しながら1週間ほど前に事件を起こしたオスロ空港に向かい、保管エリア奥にあった時間逆行装置を用いて順行状態に戻りたい。
- 主人公の成果:順行状態へ戻る事に成功し、キャットも一命を取り留める。
- ポイント1:順行状態に戻るため、わざわざ遠方のオスロ空港に行く理由は、逆行状態の入り口である高速道路付近の装置は、過去時点ではセイターの支配下にあるため使えないからである。
- ポイント2:移動中、主人公がニールに正体を明かすように詰め寄るが、ニールは任務は終わるまでは答えないと回答。その一方で、プルトニウムと呼ばれるモノの正体(人類滅亡させるアルゴリズム)や、未来人の計画は明かす。この辺りのチグハグさは否めない。
[11] プリヤ追求
- 出来事:オスロ空港事件後、プリヤに会って任務の全容を教えるように詰め寄る。
- 主人公の目的:本当の事を知り、自分の手で任務を遂行したい。
- 主人公の成果:プリヤからお払い箱にされそうになるが食い下がり、最後まで任務を続行する権利と、キャットの身の保証を取り付ける。
- ポイント1:主人公がプリヤに合うのは3度目だが、プリヤ側としては2度目で、実時間の流れではムンバイで再開する前の出来事になる。
- ポイント2:プリヤは初めから事件の全容を知っていたが、主人公には隠していた。主人公を利用することで、セイターの元へ全てのアルゴリズムを手に入れさせ、その状態で全てを奪還する作戦だったようだ。だから2度目に会った時は、セイターを殺さない事を指示し、ウクライナにあるアルゴリズムの在処を教えている。
- ポイント3:知り過ぎたキャットを殺さぬように約束させること。プリヤに決定権が無いならば、組織のボスに相談させろと交渉する。これらの会話は最終シーンの伏線となる。

[12] 最終作戦準備
- 出来事:TENETの特殊部隊は、大型船舶に乗り時間逆行しながら最終作戦のために備えており、主人公達も合流した。セイターは心音が止まるとアルゴリズムが起動する工作を施し、暗殺させないようにしている。そんな話を聞いたキャットは、防衛のためではなく人類を道連れに死ぬつもりだと推測する。セイターはすでに末期癌で余命少ない事を知っているからだった。
- 主人公の目的:最終作戦でアルゴリズムを奪還する。しかし、それまでセイターには死んでほしくない。
- 主人公の成果:キャサリンの話から、セイターが自殺を図る場所と時間を特定。キャサリンに自殺を引き延ばすように指示した。
- ポイント1:セイターが死場所に選ぶのは、ベトナム洋上でキャサリンが復縁を持ちかけた日。その日は劇中冒頭のオペラハウス襲撃と同日で、当時のセイターはヘリで船から抜け出し、キエフの現場に居たことをニールが知っていた。主人公に、なぜそれを知っているか聞かれたニールは答えをはぐらかす。その理由はニールもキエフに居たからだ。当日に主人公を助けた赤い紐の男がニールなのだが「無知は武器」の考えでソレを教えない。
- ポイント2:セイターは手に入れた全てアルゴリズムを、未来人へ届く”秘密のポスト”に移動させ封印しようとする。その場所はスタルスク12の地中なのだが、TENET側はクロズリー卿が得た情報から場所と時間を特定し、奪還作戦の準備を進める。
- ポイント3:主人公は別働するキャットに最後の別れを告げる際に電話を渡す。これが最終シーンの伏線になる。
- ポイント4:戦闘直前の作戦発表中にアイブスは、特別班に加わる主人公に「生きては戻れぬ任務だ」と言う。これは単純に死ぬリスクがあるとか、そのような覚悟が必要という比喩ではなく、たとえ任務が成功して生還しても、奪取したアルゴリズムを未来人から隠匿するために、自らの存在は社会的には死亡した状態となり、いずれ密やかに自死する必要がある事を意味する。

[13] 決戦スタルスク12
- 出来事:TENETの部隊は、順行チーム(赤)と逆行チーム(青)、更に主人公とアイブス2名の特別班に分かれ、10分間の時間の挟撃作戦を行い、アルゴリズムの奪還に成功。
- 主人公の目的:アルゴリズムの奪取。
- 主人公の成果:アルゴリズムの奪取。地下の爆破から生還。ニールから彼の正体と近い未来の話を聞く。
- ポイント1:挟撃作戦は、映像を観てると混乱するが内容はシンプルだ。赤と青チームは基本的に敵との戦闘しかしない。主人公&アイブスは、地下に潜ってアルゴリズムを探す。ニールは逆行(青)チームだったが、機転を効かせて順行状態に戻り、主人公が地下から脱出できるようサポートに回る。
- ポイント2:主人公が地下へ到着時に既にあった死体は未来のニール。ニールは作戦終了後、逆行状態で主人公の応援に駆けつけ身代わりに撃たれ死ぬ。順行状態の主人公から見れば、死体が急に立ち上がり、何処かへ消えて行くように見えた。
- ポイント3:奪取したアルゴリズムは再びパーツに分解され、アイブス・主人公・ニールが何処かへ隠す事になる。しかし、ニールはこれから逆行して主人公を助けに行く。そこで死ぬ事も知っているため、自分の預かったパーツも主人公に渡した。
- ポイント4:ニールは、主人公らが戦った地下の様子を見ていないのに、なぜ死ぬ事を知っているのか?。そして、なぜドアを解錠できたのか?。それは、この作戦中で起きる事は、未来で主人公から予め未来で聞いていたからだろう。そのために解錠の訓練を積んでいたと思われる。別れ際のアイブスが、ニールの解錠技術は優秀だと認めている。細かい点を付け加えると、死ぬ直前のニールは逆行状態にあるので、彼は解錠ではなく施錠した事になるだろう。
- ポイント5:セイター側チームの行動には2つの疑問(ツッコミ)が浮かぶ。1つ目は、アルゴリズムの投函をボロコフ一人だけに任せていた事で、とても重要な物なのに警備が薄過ぎる。2つ目は、逆行ニールの死体を放置していた事で、ボロコフも現場に来た時には既に死体がある筈なのだから、少しは疑えよ!と思う。
- ポイント6:アルゴリズムを回収直前にセイターは死んだのに、なぜ起動しないの?。と思う。そもそも劇中の説明(会話)が不十分で、セイター目的も「起動」か「未来人へのポスト」なのか、非常に分かり難い。これについては後述の考察に述べた。

[14] エピローグ
- 出来事:プリヤは、知り過ぎたキャットを暗殺しようとする。しかし主人公によって阻止され彼女も殺される。
- 主人公の目的:キャットを生命を守る。
- 主人公の成果:キャットを生命を守った。
- ポイント1:スタルスク12作戦前の別れ際に渡した電話のメッセージの情報を元に、主人公は密やかにキャットを守っている事がわかる。
- ポイント2:プリヤの殺害は、スタルスク12作戦前に交わした約束を反故にした報復でもあり、組織のボスである事を自認した主人公が彼女は用済みと判断したからでもある。
考察:アルゴリズムとは?

本作のストーリーの主軸は、アルゴリズムの争奪戦だ。
人類を滅亡できるヤバいシロモノである事は伝わるのだが、セイターが何をしようとしていたのかイマイチ分かりにくい。
劇中の会話からわかる情報を基に、私なりの解釈をまとめた。
あの鉄の塊は、そもそもナニ?
- 遠い未来の科学者が開発した、世界全体の時間を逆行させる「方法(アルゴリズム)」を物体化したモノ。
- 理論上は、世界全体の時間を逆行させると全ての生物が消滅、あるいは死亡する。但し実際に使用された例はなく、どのような結果になるかは成否不明。
- 未来においても世界で1つしかなく、複製は不可能。
「アルゴリズム=方法・手順」なのだが、数式や論文という形式では、コピーや伝達が容易になってしまうため、”物体化”して唯一無二のモノにしたのだと推察する。
未来で起きる(起きた)事
- 未来人はアルゴリズムを過去の時代で起動させ、過去の人類を滅ぼそうとした。
- 使用される事を恐れた科学者は9つのパーツに分解して隠匿。さらに入手困難にするため、過去世界における核兵器保有国の軍事施設を隠匿場所に選んだ。
- 未来人は9つ全てのパーツの隠匿場所の特定に成功し、現代のセイターに収集するように指示。
科学者がアルゴリズムを”破壊”せずに”隠匿”した理由は、破壊しても復元されてしまうと考えた。あるいは過去に劇中の時出来事が起きる事を知って、その結果に沿うように行動した。などの可能性を推察する。もしも私が未来人の立場なら、科学者が分解・隠匿する直前に時間逆行して強奪するが、それが出来ない事情やドラマがあったのだろう。
セイターの行動と計画
- 未来人から提供される情報と資金を使い、財力、武力、さらに政府や軍の中枢とのコネクションを築く。
- 着々とパーツを収集し、劇中以前に8つを入手済み。
- 主人公を介して、ウクライナが保有していた「プルトニウム241」と呼ばれる最後のパーツの入手に成功。
- 9つ全て揃ったアルゴリズムを、未来人へ届けるための「秘密のポスト」に移動させる。
- 「秘密のポスト」の場所は、スタルスク12の地下施設内。未来人以外から発見されないように、施設ごと爆破して地中深く埋める。
- 「秘密のポスト」の場所の情報を未来人へ送信する。送信トリガーはセイターの死(=デッドマンスイッチ)。
以上が成功すればセイターの任務は完了し、未来人の目的は果たされるハズだった。
誤解しやすいポイント
私も初見で誤解したのだが、9つのパーツを揃えれば、すぐに起動可能になる訳ではなく、一旦未来人へ届ける必要があった。
「①アルゴリズムを「秘密のポスト」へ保管し、②ポストの場所を伝える。」セイターは、この2つの条件を満たす必要があったので、TENETチームはスタルスク12で①を阻止し、キャットはベトナムの洋上で②を引き伸ばそうとしたのだ。
もしもセイターの任務が成功すれば、アルゴリズムが未来人の元へ届き、起動させる事が可能となる。起動までの時限装置を設けて時間逆行させれば、人類滅亡させる時代は選び放題となる。未来人は現代でアルゴリズムを起動させようとした訳ではなく、収集作業に適した時代に現代を選んだという訳だ。
キャットの引き伸ばし工作はムダ?
TENETチームがアルゴリズムを回収できれば、保管場所を伝えても、その場所にモノは存在しないのだから意味はない。実際に劇中でも奪取作戦中にキャットはセイターを殺してしまったが、作戦の結果に支障はなかった。
そもそも、未来人からすれば遥か過去の事なのだから、行動した結果さえあれば、どの時点でセイターが死んで情報が送られようとも関係ないのだ。メタ的に見れば、映画内のクライマックスまでセイターを活かすための演出設定だろう。
セイターは自分の死によって人類を道連れにするつもりだが、彼が死んだらすぐに滅亡する訳でない。どの時代でアルゴリズムを起動するかは未来人の選択次第なのだ。
考察:冒頭のオペラハウスで何が起きていたのか?
本作で最も難解なポイントは、冒頭のオペラハウス襲撃事件である。一体ナニが起こっているのか?。初見で理解できる者は皆無だろう。しかしながら、全体のストーリーや敵/味方勢力の思惑が理解できれば、朧げながら全容が見えてくる。このシーンも結局は、アルゴリズム(=プルトニウム241)の争奪戦なのだ。「コレが正解だ!」と断言までは出来ないが、劇中で示される情報を元に整理した。

事件で起こったこと
- オーケストラ公演直前、主人公達(CIA)は現場近くの車内で待機。
- スーツの男(潜入中のCIAスパイ)とロシアの軍服を来た男が、VIPルームで観覧。
- 武装したテロリストが現れ、会場を占拠。
- 即座に大量のウクライナ警察隊が事件鎮圧に駆けつける。
- 運転席の二人(ウクライナ人?)に起こされた主人公達(CIA)が、警察隊に扮装し行動開始。
- 警察隊はなぜか会場中に催涙ガスを散布。主人公は異変を感じ始める。
- 観客達は眠り始める中、テロリストは用意していたガスマスクを装着する。
- 警察とテロの交戦が始まると、主人公たちはスーツの男の元へ駆けつけ、身柄を確保。
- 主人公がスーツの男に「これは貴方を消す偽装テロ」と告げたあと、“例のモノ”を在処を尋ね、脱出を開始
- 警察隊がなぜか会場に時限爆弾をセット。それを見て戸惑う主人公は警察隊員に怪しまれるが、同じく潜入中のCIA職員に助けられる。
- 主人公が、クロークで”例のモノ(プルトニウム241=アルゴリズム)”を確保する。
- 集合したCIAチーム。その中の一人はスーツの男と服を交換して、2班に分かれる。主人公とスーツ着用したもう一1名は最初の車に戻り、もう一方は確保したスパイと例のモノを連れて下水道から脱出することに。
- 警察隊が証拠を消すために会場ごと爆破する狙いに気づく主人公。任務外だが観客を救出しようとする。
- 客席にテロと警察隊の姿は消えており、主人公は客席の爆弾を回収を始める。ところが、残っていた警察隊に見つかりピンチに陥るが、謎の男(ニール)の逆行弾に助けられる。
- 主人公達は無事に待機車両に戻った。しかし、運転先の二人に襲われる。
- 場所を移動すると、仲間の情報を吐くように拷問を受ける。最後は薬で自死を図る。
- 後日に聞いたフェイとプリヤの話によると、別行動した仲間達は死亡。”例のモノ”はウクライナ保安局に回収・管理された。
各人物の行動から紐解く、それぞれの目的
主人公(CIAチーム):テロリストの襲撃計画を事前察知して待機。警察に紛れて、同僚のスパイと”例のモノ”を確保して脱出する事が目的。ところが主人公は人道的な考えから、任務予定外である人命救助も行おうとする。
テロリスト:表向きの目的は不明。CIA側の情報によると「テロ計画は偽装で、CIAスパイを消す事が真の目的」とのこと。警察が用いる催涙ガスに対する準備していたので、警察側の内通者から情報提供を受けていると思われる。
ウクライナ警察:表向きの行動はテロの鎮圧。しかし、対応が迅速かつ周到すぎる事から、事前に計画を知った上で泳がせていたと思われる。最後には会場ごと爆破して証拠隠滅を図るので、そもそもホンモノの警察かどうかも疑わしいが、あの大人数の全てがニセモノとは思えないので、組織内の一部人間の仕業と考える。警察とテロリストは互いの動きを知っているようなので、影では同じ人物(つまりはセイター)が糸を引いていると推察する。マッチポンプで派手な戦闘を行わせ、その混乱に乗じて秘密裏にプルトニウム241を強奪する事が、この事件の真の目的だろう。
スーツの男:ウクライナに潜入中のCIAスパイで、”例のモノ”の入手が任務だったようだ。具体的に、どんな立場になりすましているか明確になっていないが、護衛付きVIPルームでロシア将校と同席し、「彼らから信頼されている」と豪語する事から、ウクライナの高官としてロシア軍関係者との取引を交わし、”例のモノ”の入手したと考えるのが妥当だろう。ちなみに彼は、“例のモノ”を普通のバッグに入れてクロークに預けているので「プルトニウムと呼ばれている事を知らない。」あるいは「プルトニウムと呼ばれているが実は違うことを知っている。」と推察する。
ロシア軍将校:ロシアの軍事施設のあったプルトニウムを持ち出して、CIAスバイに供与したと推察する。私は初見ではウクライナ軍の将校と思ったが、よく見るとロシア軍の制服だった。アルゴリズムのパーツは核兵器保有国の軍事施設に隠匿した設定だが、ウクライナは1994年に安全保障を引き換えに核兵器をロシアに移送・廃棄した。そのような歴史的軍事背を鑑みると、やはりプルトニウム241はロシアから持ち出されたモノと考えるのが妥当だろう。
運転席の二人組:登場時の様子は、CIAに協力する現地ウクライナ人という印象。ところが、事件終盤に車へ戻ってきた主人公達を襲い、拷問する。てっきり敵側勢力の人間かと思いきや、フェイの指示で動いていた事が後に判明。初見時は、彼らは敵側の人間で、主人公が服薬した後にTENET隊員が現れて救助されたのでは?。等とも思ったが改めて見ると、それを裏付ける根拠や描写は無かった。
覆面姿の男:逆行弾で主人公を救ったのはニール。バックパックについた赤い紐をヒントに彼だった事が後の展開で判明。なぜ彼は、わざわざ逆行弾を使用したのか?。この場面単体においては特に意味はなく、主人公が逆行弾に興味を持ち、その出所を追うストーリーへ導くキッカケに過ぎない。
フェイ:事件後に登場するフェイはCIA職員でありなら、主人公をTENETへ勧誘するスカウトマンである。オペラハウス事件における味方勢力側の実質的な黒幕と言える。米国CIAとしての表向きの目的は、核弾頭に使われるプルトニウムの回収だったと推察する。
セイター:このシーンに彼は登場しないが、事件の影には彼の手が及んでいると考えるのが自然だろう。
公開当時、まだロシア・ウクライナ戦争は起きていなかった。この2国に加えて米英などの核兵器保有に関する歴史背景を知ると、この作品の深みを感じる事ができる。
考察:逆行状態で死ぬと、どうなる?
劇中でニールは逆行状態のまま死んだ。そんな彼の死体は一体どうなるのか?
“死後の世界”とか”魂”の話は置いておき、物質的な事を考える。
通常の死体であれば、やがて腐乱が始まり、時と共に朽ちてゆく。しかし衣服などの着用品は数十年は形を保つだろう。普通(順行状態)の者から見れば、何も無かった場所にボロボロの衣服が次第に形作られ、数十年かけて新品状態に近づき、衣服の中身から腐った死体が次第に形作られ、やがて新鮮な状態になり息を吹き返す。まるでホラー映画だ。
また、死体の腐敗を促す体内の酵素や細菌類は、逆行状態で生存できるのだろうか?。逆行状態の死肉を食べた動物や虫は、胃の中で消化できるのだろうか?。などに思考を巡らせると面白い。
劇中には映らないバックヤードの時系列を考えると、矛盾は避けられない。スタルスクでの作戦開始時、アルゴリズムを埋めるために地下へ来たボロコフは、そこでニールの死体を見つけることになるだろう。敵の死体を見つけて不審に思わなかったのだろうか?。

ボロコフがマヌケ野郎だっとしても、あの地下施設は作戦以前から存在しているのだから、セイターか彼の手下の誰が死体を発見すれば、移動・処分するだろう。しかし処分されてしまえば、作戦時にはニールの逆行死体は無いはずだ。
死体だけではなく、逆行弾についても様々な矛盾が生じる。例えば、オペラハウスでニールが撃った座席に埋まっていた逆行弾も、順光状態から見れば、一体いつからアソコにあったのだろう?。という疑問が浮かぶ。オペラハウスの新築当時まで遡ると、最初から傷物のシートが設置されていたことになる。さらに言えば、シートの加工・製造過程で既に傷があるのは、どう考えても変だ。
登場人物の女性科学者は「考えるな、感じろ(Don’t try to understand it. Feel it.)」と言っているが、やっぱり考えてしまう。それが楽しいのだが。

考察:時間逆行
時間逆行のルール
- 回転ドアの形をした装置を用いる。
- この装置の中へ入った物質や人間のエントロピーを反転させることで、時間の進む向きを逆転させる。
- 時間を逆行する速度は、順光と同じ。例えば3日間ほど時間を遡りたい場合は、逆行状態で3日間を過ごさなければならない。
- 装置には順行(赤)から逆行(青)の出入口があり、赤から入り青から出たモノは時間の進みが逆行し、青から入り赤から出たモノは時間の進みは順光に戻る。
- 装置に入る直前、反対側の出入口から「装置から出てくる自分」の姿を確認しなければならない。もしも姿が見えないまま入れば、それは「失敗(=装置内で自身が消滅する)」につながる。
- 過去の自分(順行)と現在の自分(逆行)が直接触れ合うと、対消滅してしまう。作中では防護スーツで全身を覆うことで回避してる。
- 逆行状態では、肺が酸素を取り込む仕組みも逆転するため、通常の呼吸が出来ない。逆行中は必ず専用の酸素ボンベを着用しなければ生きられない。
- 時間を逆行する速度は、順光と同じ。例えば3日間ほど時間を遡りたい場合は、逆行状態で3日間を過ごさなければならない。
時間逆行について真剣に考察すると、疑問や矛盾が多い。しかし、そのような野暮な事を突いてはいけない。「考えるな、感じろ(Don’t try to understand it. Feel it.)」



コメント