★★★★★ 1977 アメリカ 監督:ジョン・フランケンハイマー 出演:ロバート・ショウ、ブルース・ダーン、マルト・ケラー、フリッツ・ウィーヴァー
あらすじ
テロ組織「黒い九月」は、アメリカ最大のスポーツイベント「スーパーボウル」会場への爆破テロを計画する。情報を察知したイスラエル情報機関の少佐は、テロリストとベトナム帰還兵のパイロットによる未曾有の爆破計画を阻止すべく追撃を開始する。
主人公はイスラエル諜報員
アメリカ国内で大量殺人を計画するテロリストを主人公が追いかける。そんなストーリーで間違いないのだが、近代の歴史や国際情勢を盛り込んだ奥の深い作品だ。

注目する点は、主人公はイスラエルの諜報員であること。米国内での事件なのだが、FBIなどは殆ど役に立っておらずw、情報収集から犯人との戦闘までロバート・ショウ演じる主人公が奮闘する。
なぜイスラエル人の主人公が米国内で捜査するのか?。
テロ首謀者はイスラエルと敵対するパレスチナの過激派グループに属する者で、過去に主人公が”女”という理由で見逃した者だった。自分の過去の汚点を拭いたい。そのような動機が働いたのだろう。
そして、アメリカとイスラエルは特別な同盟国家である。徹底した仕事人である主人公は、同盟国での事件でも手を抜かない。
彼の仕事人ぶりが本作の見どころの1つで、序盤では主人公ではなくて悪役か?と勘違いするほどの冷徹ぶりなのだが、中盤シーンから印象が変わる。爆弾で負傷した彼の口から家族の話や弱音が語られると、人生をかけて国家に尽くしてきた男の悲哀を感じ、中年オヤジである私は猛烈に感情移入した。
有能だが手段を選ばない事で有名な彼は、米国の政府関係者から「米国内では無茶な事はするな」という旨の注意を受ける。前半ではそれなりに行儀良くしていたが、同僚が殺された後半からは違法捜査の連続。枷が外れた主人公によって犯人を追い詰めていく。
映画を見終えると、主演のロバート・ショウのファンになっていた。このような渋くてカッコ良く仕事のできるオッサンになりたい。
戦禍に生まれた女性テロリスト
テロ計画の首謀者の一人であるダリアは、パレスチナ過激派「黒い九月」に属する女性テロリスト。
イスラエルを相手に戦ってきたが、”イスラエルを支援する米国民にも痛みを味合わせたい”というのが彼女の動機だ。
イスラエルが建国された1948年にパレスチナで生まれた彼女は、中東戦争によって家族が戦死、病死、強姦などの被害を受ける。難民キャンプで生活し、アラブ連盟の援助で大学を出た後「黒い九月」に加入する。純粋なアラブ人ではなくドイツ人(第二次世界大戦下にユダヤ人を虐殺した国)との混血である設定も、なかなか奥深い。
そんな彼女の過去はドラマチックな回想シーンを用いることなく、主人公に渋々協力したアラブ側の関係者が報告書を読み上げる形で淡々と視聴者に伝えられる。そして最後に付け加えた「君ら(イスラエル)が彼女をこうさせた」との一言が、この事件は単純な”正義VS悪”ではなく、歴史の必然であるように強烈に印象づける。
現実と国家に失望したベトナム帰還兵
もう一人のテロ首謀者であるマイケルは元米軍兵士で、ベトナム戦争で捕虜になり拷問生活を送っていた。生きて帰国できたが妻には捨てられ、世間から冷たく扱われ、心に強烈な怒りを抱えていた。フットボール競技場への攻撃を立案したのは彼で、軍隊経験を活かして気球の操縦を仕事にしている。
先述のダリアとは対照的に、彼の境遇や異様性は劇中でしっかり描かれている。かなり用心深く気が短い。劇中で明言されていないが、きっと”PTSD”を発症しているのだろう。彼がテロを起こす動機は視聴者に理解・共感しやすくなっている。
そんな彼をダリヤは「頭が良くて信念のない子供。そして凶暴」と評しており、米国内でテロ活動に利用していた。二人は恋人でもあるようだったが、ダリアはビジネスとして付き合っていたのだろう。なんて哀れな男だろうか。
しかし、テロ決行前夜のホテルでマイケルが「愛している」と言うと、ダリヤは泣き崩れる。このシーンでは、それまでのテロ活動を通して二人の関係性や心情に変化が起きた事を察する。なぜダリヤは泣いたのだろうか?。
マイケルは自分が利用されている(=本当の愛ではない)事は気付いていたのだろう。それでも死を前にして「愛している」と言ったのだ。そんな男の言葉を聞いたダリアは、マイケルへの罪悪感や死への恐怖が去来して泣き崩れたのだと思う。彼らが残酷で冷徹なテロリストではなく、複雑な感情を持った人間だという事に改めて気付かされる良いシーンだ。
覇権国家の功罪
本作は高いエンタメ性を保持しながら、世界の歴史・文化への向学心を刺激する。このような作品は私が好きだ。面白い外国映画は、観賞後にイマイチ理解できなかったポイントを調べる。それらに文化・歴史的な背景があることを知ると、自分の知らない世界に興味が湧く。それらを知ってから映画を見直すと、より面白く感じる。このような好循環を生む作品は、他人へもオススメしたくなる。
米国は「民主主義を世界中に広めるため」と謳いながら世界各地に進出し、経済や軍事に様々な介入をした。その結果、他国民からも自国民からも大きな反感を生み、本作では米国本土でのテロ攻撃による報復を受ける。
そして2001年、現実世界においても”911事件”が起きた。アラブ系テロリストが爆弾を積んだ気球線を操縦して突っ込む本作は、事件の動機から手段まで類似点が多いため”911″を想起する。
今年、核兵器の開発を進めるイランへ、アメリカとイスラエルが共同で攻撃を開始した。世界情勢が揺れている今だからこそ、観ておきたい作品である。
2時間20分を超える大ボリューム作品
このように本作は、主人公とテロリスト側の環境や心情を控えめかつ奥深く描いている上、近代の歴史・文化を背景情報に取り入れているため、とても情報量が多い。上映時間が2時間20分もあるのは、それらを丁寧に描いているからだろう。しかしながら決して無駄に長くなく、飽きない。
そして視覚的に十分楽しめる。特にフットボール競技場に気球線が突っ込むシーンは圧巻だ。これぞクライマックス。そもそも本作を観ようと思った動機は、このシーンが見たかったからだ。CGの無い時代だからこそ見せ方にとても凝っていて、会場中がパニックになる臨場感と緊迫感を味わえる。
ビジュアル面でもう一つ加えると、登場人物たちのファッションもカッコいい。いかにも70年代らしいシルエットのシャツやスーツ。ダリヤもファッショナブルでカッコいい(テロリストなら地味な服装しとけよw)。エキストラ達もオシャレな服装の人たちが多く、思わず一時停止して確認することもあった。


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