★★★★☆ 1987~1988 著者:石ノ森章太郎 出版:講談社
後味の悪い結末を迎えるマンガ版の『仮面ライダーBlack』。
この作品の謎や設定について、私的考察を交えて解説していく。
なお、この記事はネタバレと独自解釈を多分に含みます。また、仮面ライダー・シリーズにも詳しくないので、熱心なファンの方にはトンデモ説に思われるかもです。ご承知おき下さい。
未来の魔王の正体は、やはり南光太郎
人類が壊滅した未来を支配するゴルゴムの魔王。その姿は、南光太郎の変身後と瓜二つ。魔王は未来の光太郎なのか?、それとも同じ変身姿の秋月信彦なのか?
そんな謎を抱えながら物語は進み、最後まで正解は明示されないが、最終回で信彦に勝利した光太郎こそが”未来の魔王”という解釈で間違いないだろう。
とは言え、途中のストーリーにはそれを惑わせる描写やセリフもある。これを矛盾なく解釈するには…
「1988年の光太郎が見た30年後の未来の魔王は、光太郎と信彦のどちらもが魔王になる可能性がある不確定な存在だった。それが1999年の最終決戦の結果によって、光太郎=魔王に確定した。」
と、解釈するのが妥当だろう。

読者を惑わせる描写
作中には魔王の正体についてのヒントや矛盾を感じる描写が幾つかある。それについての私的解釈をまとめた。
光太郎の夢に現れた魔王の声が信彦に似ている。…この時点では、信彦が光太郎に勝利する(=魔王に成る)可能性の方が高かったため。と解釈した。しかし、その可能性は後の展開によって逆転する。メタ視点で言えば、このエピソード直後の信彦登場回への布石。

未来の魔王の拠点で、光太郎の姿を見た衛兵は彼を魔王と間違えるが、臭いの違い感じた番犬は光太郎に襲いかかる。…同一人物だとしても、そもそも30年が経っているし生活環境も違うのだから、臭いも違うだろう。
30年後の魔王「ノブヒコ?、そんなヤツは知らん」…物語終盤に1988年からテレポートした光太郎が、30年後の魔王に正体を尋ねた時の回答だが、この時点では光太郎が信彦に勝利する(=魔王に成る)未来に書き換わっていたからだ。そしてゴルゴムの洗脳によって人間としての感情の共に、過去の記憶までも消えかけている。と解釈した。

30年後の魔王「ワシは確かにお前だが、お前を殺しても俺は死なん」…もしも光太郎が死んだとしても、代わりに信彦が魔王に成る未来が訪れるから。という意味で解釈した。そして結局、光太郎は魔王を殺せなかった。
1999年の信彦「オマエが死ねば、俺が世界の王となる。俺が死ねば、オマエが世界の王となる。」…どちらが勝利しても魔王が誕生する未来は変わりない事を意味する。すでにゴルゴムの思想に染まっていた信彦は、自分たちの仕組まれた運命を理解していたのだろう。

1995年の信彦「オマエを殺し、オマエのエネルギーを吸収し…オマエと一体にならなければいけないのだ!」…対決に勝利した者がベースになり、相手の力を吸収するようだ。つまり、どちらが勝っても魔王は誕生し、前述の「オマエが死ねば…」のセリフに結び付く。
光太郎が魔王になるのは、ゴルゴムの洗脳
正義の主人公であるはずの光太郎が、なぜ未来でゴルゴムの魔王になってしまうのか?
洗脳・脅迫はゴルゴムの常套手段
1988年時点の信彦は、光太郎に協力してゴルゴムと闘っていた。ところが1995年にはゴルゴム側の人間になっていり。空白の7年間に何が起きていたのか?
きっとゴルゴムに再洗脳されたのだろう。彼を踏みとどませた親友の光太郎は不在。いつでも人質になりそうな妹:杏子という存在もいる。秋月家の家政婦:タキもゴルゴムによる伝染病で死亡した。ウィークポイントを握られた信彦がゴルゴムに操られる姿は想像に容易い。
信彦の父や恋人も人間としての良心を残しつつも、ゴルゴムの支配に下った。ゴルゴムは恐ろしいほど狡猾な組織なのだろう。
そして信彦に勝利した光太郎も、ゴルゴムの再洗脳によって魔王へ変貌したのだろう。最終回で「教えてくれ〜!!、おれはだれだ?!」と苦悩する光太郎の姿は、悪の道へ転がってしまいそうな危うさを感じる。
神輿に担がれた”魔王”
30年後の未来で「魔王」と呼ばれている者は”新世界の王”などではなく、ゴルゴムの”傀儡”に過ぎない。と私は考える。
1988年の現代では、すでに世界各地にゴルゴムの拠点が存在し、多数の怪人達が登場して光太郎と戦った。しかし組織のブレーンとなる幹部やボスの存在は、劇中に全く登場しない。
ネパール編のボスであるシヴァでさえも「本当の中心(センター)は誰も知らない」「アタシを殺しても無駄よ。変わりはいくらでもいる…」と言っている。
この表には現れない”センター”こそが真のボスだ。彼らが光太郎を洗脳し、怪人達の「魔王」に祭り上げ、破壊活動の尖兵として働かせていると推察できる。
30年後の未来においても、ゴルゴムの真のトップは”センター”なのだ。
光太郎と信彦が戦う理由は、ゴルゴム内の覇権争い?
ゴルゴムは全く同じバッタ怪人を作り、対決させ、勝者が魔王になるように仕組んだ。しかも出生前から2人が同じ月日時刻に生まれるように、ゴルゴムによって仕組まれていた。

魔王を造るために何故このような周りくどい事をするのか?。その理由は劇中で明示されていない。私は、この答えをアテネ編のエピソードの中から見出した。
アテネ編に登場するミノタウロスとケンタウロスは、怪人同士で殺し合う。その理由はゴルゴム内の2つの科学者グループの対立だった。ゴルゴムには組織内のグループを競い合わせる文化があるようだ。

この構図を”光太郎VS信彦”に当てはめると、争いの理由が腑に落ちる。
将来の怪人達を統べる魔王となるべく最強のバッタ怪人2体を造り、戦わせて生き残った者(優秀な個体)に選別する。2体のバッタ怪人の改造は、それぞれ別のグループが統括し、科学力と政治力を組織内で競わせた。そして、勝利した怪人側に付いたグループが次代の”センター”となる。


わざわざアテネ編で組織内闘争を描いた理由は、このような背景の暗示ではないだろうか。
また、ゴルゴムには古くから予言のような物が存在し、それに沿って2人を作った。という仮説も想像したが、これにはピンとこない。何故ならば、怪人達の行動や動機に一貫性は無いし、様々な宗教の神を模した怪人を造ることから、ゴルゴムという組織には宗教的な思想やイデオロギーを感じないからだ。むしろゴルゴムは神を信じず、自らが神になろうとしている。

グムとフィーチの正体
光太郎を導いた”アボリジニーのグム”と”ホワイトのフィーチ”。彼らの正体を考察することで、この物語に奥行きを感じる事になる。
アボリジニーのグム=カモノハシ男
オーストラリアのホテルに宿泊した光太郎を襲ったカモノハシ男。その正体は現地のアボリジニーの少年なのだが、この彼こそが後のグムであろう。その根拠は以下の通り。


- 光太郎が怪人を生かして返した例は、彼の他にはない。
- その理由は、光太郎自身も分からないと言ってる。
- 襲撃後、未来のフィーチから渡されたペンダントと同じサザンクロスの星空が描かれる。
- 特徴的な鼻の形などに容姿が共通する。
- 彼がグムでなければ、このカモノハシ男の襲撃エピソードを描く必要性を感じない。
30年後の姿にしては歳を取り過ぎているが、改造人間になったことによる副次効果かもしれない。サザンクロスのペンダントはこのエピソード以降は登場しないし、結果的にこのペンダントは、光太郎ではなく若きギムの命を守る御守りになった。



なぜ彼は30年後、生き残った人類と共に行動しているのか?。大きく2つのパターンが想定できる。
- 人類サイド:ゴルゴムに謀反し改心して、人類側に寝返った。
- ゴルゴムサイド:ゴルゴムに属したまま、人間のふりをして潜伏している。
人類サイド説
光太郎に敗北したことにより、ゴルゴムに居場所が無くなったグム。隠遁しながら人間の生活に戻り、核戦争後の世界では生き残った人類を手助けするようになった。そして若き頃に見逃してもらった光太郎を思い出し、救世主として未来に召喚した。このようなサイド・ストーリーが想像できる。
少年マンガとして素直に読めば、彼は主人公を助け、正義と勝利へ導く存在のように思える。しかし、それでは腑に落ちない行動を彼らは続けるため、もう一方の説を支持する。
ゴルゴムサイド説
彼がゴルゴムに属したまま人類と共生しているならば、その目的の一つは諜報活動だろう。しかし、彼の目的はそれだけではない。
彼は前述の”ゴルゴム内の覇権争い説”の”光太郎派グループに属する怪人で、光太郎を信彦に勝利させるために人類の味方を装って接触した。というのが私の見方だ。
更に想像を膨らませると、元来は信彦が光太郎に勝利して未来の魔王になる世界線だったが、グムによる過去の光太郎への協力によって歴史を書き替えた。つまり、ゴルゴム内の光太郎派グループが敗北するはずだった結果を勝利へと塗り替えた。と考える。
この仮説を基にすると、前述に書いた”魔王の正体を惑わせる描写”についても、説明がつく。
光太郎が初めて未来を訪れた時、遭遇した魔王の声が信彦に似ている件。…この時点では、まだ魔王=信彦になるはずの未来だった。
グム達の干渉により現代の光太郎の意識や行動に変化を及ぼし、次第に未来の結果が変えた。そして、光太郎が再び訪れた未来では、魔王=光太郎に結果が書き換わっていて「ワシはお前だ」という発言に至った。
グムはカモノハシ男という”ザコ怪人”などではない。ゴルゴムという組織の中で、この上ないほどの汚名返上・捲土重来を果たし、”歴史のゲームチェンジャー”となった真の勝者だ。
フィーチ=カメレオン男
グムと行動を共にする白人女性のような姿をしたフィーチ。やはり彼女(?)もゴルゴムの怪人だ。
彼女は光太郎を時空移動させたり、テレパシーで交信する。このような能力は彼女自身は”霊力”と称しているが、ゴルゴムの科学力によるものだ。
ゴルゴムは1988年時点ぼアテネ編では、すでに時空移動実験を成功している。彼女がゴルゴムの怪人ならば、このような能力を持っていても不自然ではない。
このフィーチの正体は、オーストラリアに登場したカメレオン男だ。
カメレオン男は、宿泊したホテルの女性スタッフに変身して光太郎に近づき、観光ガイドに変装して光太郎とエアーズロックへ同行する。
光太郎は不意に現れたカメレオン男に襲撃される。意識を失いかける途中、夢でフィーチの姿を見る。そして観光ガイドに起こされて目を覚ます。
観光ガイドが怪人の姿へと変身する描写がないため、急に登場したカメレオン男の不意打ちによって危機に陥った光太郎を、未来のフィーチが助けたかのようにも見えてしまう。
しかし実際は、カメレオン男は光太郎の意識を失わせたあと、フィーチの姿に扮して「お前が未来の王になるべき存在だ」という暗示をかけたのだろう。



光太郎を時空移動させた理由とタイミング
劇中で4回、グム達は現代(1988年)の光太郎に干渉する。しかし、そのタイミングと理由には謎が残る。特に3度目と4度目は唐突で不自然さを強く感じる。
- Part13.豪州異次元大陸序章:光太郎の夢の中に現れて、30年後の荒廃した世界や魔王の姿を見せる。
- Part17.豪州異次元大陸第一章:怪人の姿で光太郎を襲う。
- Part20.豪州異次元大陸第二章:1988年のトランシルヴァニアでの戦闘中、強制的に30年後の未来へテレポートさせる。その後、魔王を倒すように促す。
- Part21.東京:1995年の秋月家で信彦との戦闘中、強制的に1999年へテレポートさせる。その後、魔王(=信彦)を倒すように促す。
これについての私の解釈は以下の通り。
1度目:夢の中で30年後の未来を見せる
1度目の接触の主な理由。
- 未来の出来事や魔王の存在を教えて、信彦への猜疑心を植え付ける。…信彦が秋月家に帰宅し、光太郎と再会する直前のタイミングだった。もしも光太郎が未来の出来事を知らなければ、いずれ信彦に騙し討ちを喰らっていたかもしれない。
- 現代のオーストラリアに誘き寄せる。…現代のオーストラリアに居る自分達に、直接接触させるため。
- サザンクロスのペンダントを渡す。…御守りと称して騙し、現代の自分達を襲わせないための防衛装置を身に付けさせる。
なお、このエピソードは光太郎が夢で見たように描かれているが、ペンダントという物体を持ち帰っていることから、実際に時空移動したのだろう。
2度目:現代のオーストラリアで怪人の姿で襲う。
未来の魔王の拠点となるデビルズ・ロック(=現代のエアーズ・ロック)へ、光太郎は調査に訪れた。しかし、彼にとっては何も収穫を得られず帰国した。
その一方で、グムとフィーチの計画成功した。それは現代で光太郎に洗脳を施す事だ。その方法は光太郎を襲い、眠ってる隙に強い暗示をかける事だ。
カモノハシ男(グム)の襲撃は返り討ちにされたが、ペンダントの効果によって命は奪われずに済んだ。
カメレオン男(フィーチ)の襲撃は成功。ペンダントの効果のせいか、光太郎は襲われても変身すらしなかった。夢の中で「光の王!」と呼びかけるシーンは、強い暗示をかけた描写だろう。

3度目:30年後の世界へ時空移動させる。
1988年のルーマニア・トランシルヴァニ城にて、光太郎は信彦と力を合わせて巨大コウモリ男と戦闘していると突然、30年後に時空移動した。この展開は唐突で強引な印象を否めないが、それにも意味を見出すことができる。
このタイミングで30年後へ光太郎を強制移動させた理由は以下の2つ。
- 光太郎と信彦と引き離す。
- 光太郎の魔王を倒すための動機と能力を高める。
信彦は光太郎の味方に付き、ゴルゴムと共に戦うようになった。そうなってしまうと2人が闘わないため、いつまでも魔王が誕生しない。
2人が協力して次々とゴルゴムの拠点を潰されてしまっては、世界征服計画そのものを脅かされてしまう。このトランシルヴァニア城も重要拠点だったのかもしれない。

そして、光太郎を現代から排除し、一人になった信彦へ再び洗脳を施し、世界征服する魔王の役割を担わせた。
光太郎は最終回までに、1988→2018→1995→1999という順序で時間移動するのだが、これには不自然さを感じた。特に一度30年後の世界を経由させた事に疑問に感じる。しかし、こう考えれば納得する。
1988年の光太郎は「信彦とは戦いたくない」というマインドだった。しかし30年後の世界に呼び出し、魔王の人類への残忍な所業を目の前で見せる事によって、魔王を倒す動機を高めた。
さらに魔王と戦闘させることにより、光太郎の潜在能力(特に超能力的なパワー)を刺激・解放させた。この経験が糧となり、後の信彦戦の勝利につながる。
結局、未来で魔王とは決着は付かず、戦闘中に1995年に移動してしまった。魔王の力によってハジキ飛ばされたような描写だが、これもグムとフィーチの関与ではないだろうか。もしも、そのまま光太郎が勝利するとゴルゴムに都合が悪い。
4度目:1995年から1999年に移動させる
1995年に移動した光太郎は、ゴルゴム側に付いた信彦に再会して襲われる。しかし、戦闘が始まるとすぐに1999年に飛ばされる。
1999年へ移動した光太郎にグム達は「そこなら、まだアンタにも魔王を倒せる」と言う。それなら1995年では、もっと楽に倒せるのでは?。と疑問が浮かぶ。

それではなぜ、1995年で2人を戦わせ続けなかったのか?。それは1995年の時点で光太郎が勝利してしまうとゴルゴム(グムとフィーチ)が困るからだ。
もしも1995年で戦い続けたら、きっと光太郎が勝つだろう。そうすると、この時点で魔王(=信彦)が居なくなり、ゴルゴムの世界征服計画(核戦争や大地震)が滞ると判断し、決着させないようにした。
なぜ、わざわざ1995年を経由したのか?。それは、信彦が完全にゴルゴム側に付いたこと。杏子の悲惨の姿。それらを見せる事によって、光太郎に信彦と戦う決心をさせるためだ。

なぜ1999年に移動させたのか?。それは、この年が2人の決着を付ける最良のタイミングだったからだ。
- 前述のセリフ通り、信彦魔王が力を増す前に倒せる。
- ゴルゴムの世界侵略が、ある程度進行している。
- 孤独になった光太郎に対して、時間をかけて洗脳できる。
この物語終盤における時間移動は、初見では必然性が感じられず違和感を覚えたが、グム&フィーチの陰謀説に沿って考察すると、その理由に納得できた。
感想
私が初めて見たTVシリーズの仮面ライダー作品は、”ブラック”と”RX”だった。一方で原作漫画があることは、つい最近まで知らなかった。
子供時代の懐かしさを味わいた。そんな動機に読み始めたのだが、TV版とのギャップに驚いた。光太郎と信彦が対決する設定は共通するが、その他はまるで違う。
最も驚いたのは、ライダーの戦い方だ。力づくで首を絞めて殺す。などのワイルドな戦闘が多く、後半ではサイキック・バトルのような描写も増え、”ライダーキック”なんて技は全く登場しないw。
不満点もあった。それは設定は面白いが、十分に活かしきれてないこと。例えば、高性能バイクを手に入れて”仮面ライダー”を自称するメタ的なエピソードが登場するが、後半でバイクは碌に登場もしない。
バイク屋の先輩、光太郎を追う刑事、TVクルー、などの周辺キャラも使い捨て。ヒロインである杏子もただのお飾りで物語を展開させる装置として働いてない。まぁ昭和マンガのヒロインなんて、まぁそんな扱いだったかもしれない。
最初の読後は「駆け足で終了した中途半端な作品」という印象だったが、劇中の不足情報を想像で補い仮説を立てて考察することで、やっと面白くなる作品だ。


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