
★★★★★ 2014 オーストラリア 監督:マイケル・スピエリッグ、ピーター・スピエリッグ 出演:イーサン・ホーク、セーラ・スヌーク、ノア・テイラー 原作:ロバート・A・ハインライル
あらすじ
連続爆弾魔の脅威にさらされている1970年のニューヨーク。青年ジョンは訪れた場末のバーのバーテンダーに自らの身の上を打ち明けていた。するとバーテンダーも自らが時空警察であることを告白し、元恋人への復讐を望むジョンの手助けをすると言い出す。
感想
初めて観た時は、かなり衝撃を受けた。ただのタイム・トラベル映画ではなく、主人公の出自というか設定に唖然とする。ドンデン返し系の映画として有名だが繰り返し見ると、SF設定よりも「ジョン」の内面を考察をしたくなる作品だ。
登場人物

重要なネタバレとなる人物相関図を貼っておく。この図は映画を観ていない者は困惑するだろう。主要な登場人物は同じ人間で、特筆すべきは「自分同士が愛し合って自分を出産する」という近親相姦以上にブッ飛んだ倫理観だ。とんでもない設定だが、結果に至るまでの布石や主人公の生い立ちが丁寧に描かれているため、驚きはするが納得できるプロットになっている。
このサプライズは4段階に仕掛けられ、ストーリーが進むと徐々に全貌が分かる仕組みになっている。
- ジェーンの妊娠相手は青年ジョン(後の自分)であったこと。
- 出産・誘拐された赤ちゃんも後の自分であったこと。
- 酒場で会った二人(青年ジョンとバーテンダー)が同一人物だったこと。
- 長年追いかけ続けた爆弾魔が未来の自分だったこと。
物語中の会話に、沢山のヒントや布石が散りばめられているので、2回目以降の鑑賞も面白い。例を挙げると…
- 「卵が先か、鶏が先か」「自分の尾を食い続けるヘビ」などの輪廻を示唆する言葉が随所に登場。
- 酒場の階段でバーテンダーと青年ジョンが「俺を爆弾魔と思っているのか?、そっちこそ爆弾魔じゃないか?」という会話をしているが、2人とも後に爆弾魔になる。
- 「少女時代から自分の姿が嫌いで、鏡を見なくなった」という告白が、男性になってから出会った時に女性時代の自分の姿の美しさに驚くための布石になっている。
時系列を整理

映画ストーリーではなく、ジョンの体験した人生順に時系列を図にまとめてみた。原作「輪廻の蛇」は未読。劇中で分かり難い点は、私なりの解釈と推測による仮説で補った。
テープレコーダに録音を残す意味
中年ジョンは劇中で何度か、過去の自分へ宛てたメッセージをテープレコーダに吹き込む。そして最後の任務の出発前に青年ジョンへ引き渡した。メタ的に見れば中年ジョンの語り口が作品雰囲気の演出効果となっているが、その目的はシンプルで『後継者(過去の自分)が管理局の任務をスムーズに遂行するため』である。未来からの助言によって青年ジョンは大きな成果を上げていくと推測できる。
『わざわざ録音しなくても、自分が受け取ったテープを次へ引き渡せば良いのでは?』という発想が湧いたが、それを言い出すのは野暮かもしれないw。中年ジョンのデスクの引き出しには様々なタイプの録音機器があったが、引き渡したのは1台だけ。ひょっとして他の機器は以前のループによって引き継がれた歴代の機器で、アップデートした内容を録り直しているのかもしれない。

「最初の任務」とは?
過去へのメッセージに「最初の任務は最後の任務と同じだけ重要だ」という発言がある。最後の任務とは青年ジョンの勧誘だが、最初の任務は劇中で描かれない。はじめは爆弾を探して大火傷を負った任務と考えたが、その直後の療養中に2つ目の勲章を授かったり、医師から度重なる時間移動による後遺症を指摘されていることから、そうではないようだ。1985年の管理局本部へ到着した青年ジョン。その翌日8月13日にロバートソンからタイムマシンを渡されるシーンが登場する。おそらくこれが初任務だろうが、内容や移動先は明かされない。さらには「そして全ての任務が終点の道標となる」という言葉も続くが、深い意味はなく新人に喝を入れるため大袈裟に言っているのかもしれない。
「7年前の君に忠告」とは、どの時点から?
これも序盤の録音メッセージの言葉だが、この”7年”がどの期間を指すのか分からなかった。この録音は管理局に就いたばかりの青年ジョンに宛てた物だから、彼が初任務に就いた1985年が7年前にあたると思われる。即ち1992年の中年ジョンが録音している事になる。劇中で明示されていないが、最後の指令(1970年にで青年ジョンを勧誘)を受けて出発したのが、この1992年なのだろう。”7年”という数字の意味を深読みし過ぎただけで、大火傷の療養に7年を要したのかもしれない。大火傷から帰還した年代も明示されていないが、ロバートソンが常駐する1985年と推測した。
タイムトラベルのルール
- 管理局の所有するタイムマシンで時間移動が可能。
- 管理局はテロ対策等のためにタイムマシンを使って歴史改変を行なっている。
- タイムマシンの利用方法に違反すると管理局職員であっても罰せられる。
- タイムマシンは小型(バイオリン・ケースのような形状)で容易に持ち運び可能。
- タイムマシンが開発された1981年を基準に、その前後53年まで時間移動が可能。
- 日時と共に場所も移動先を指定できる。
- 時間移動をした者は、回数に応じて精神疾患の発症率が高まる。
この作品におけるタイム・トラベルの設定・概念は、ちょっと捉え難い。管理局は自ら歴史改変を行っている。職員であるロバートソンの「時間移動の爪痕の修正にも限度がある」という発言から、管理局は改変前後の歴史を認識している事が窺えるし、任務中の派遣職員の行動も把握していると思われる。マーベル映画におけるTVAのような存在だろう。そのため歴史改変におけるタイム・パラドクスの解決は、パラレルワールド論に基づいているように思える。
しかしながら、主人公の宿命や作品全体のテーマからは『輪廻から逃れられない』という主張を強く感じる。つまり『宿命は変えられない』『時間移動しても歴史は改変されない』『時間移動に伴う行動と結果も、既定の因果に含まれる』という概念(他の作品例:12モンキーズ)であると私は捉えた。
ジョンの人物像
彼(彼女)はとても悲劇的で数奇な宿命だが、その宿命を自ら変える機会は何度かあった。ジェーンと過ごした時代に残る。赤ちゃんを誘拐しない。爆弾魔になる前に自害する。等だ。しかし、そのような選択や行動はしない。その理由は、彼の行動原理には「強い自己愛」が動機として働いているからだろう。
ジェーンは若い頃から自己評価は高いが他人を見下しており、誰からも愛されず社会的にも認められる事はなかった。そして幾度かの大きな挫折体験を経て、管理局の仕事に就いたことでエリート的な立場を得た青年ジョン。初任務前のスーツ姿では悦に浸った表情が窺える。その後の捜査員として大きな功績をあげた動機は、正義感ではなく承認欲求かもしれない。昔の自分と愛し合う行為は正に究極の自己愛だし、映画最後のセリフである「お前がひどく恋しい」という自分へ宛てたメッセージは狂気を孕んでいる。
中年ジョンはタイムマシンを使い、自分の知る宿命に沿った行動をとる。1970年へ行き青年ジョンを組織へ勧誘する行為は管理局からの命令(最後の任務)だが、それ以外の時間移動は規則違反の行為と思われる(ロバートソンは見逃すが)。もしも宿命に沿わない選択や行動をした場合、ジョンがこの世に誕生しない可能性が生じる。つまり自殺行為に等しいため、自己愛の強い彼には既定外の選択と行動は恐怖なのだろう。
爆弾魔の正体を知った後も、ジョンは爆弾魔になる選択をすることになる。それは精神疾患の進行も原因の1つだが、強い自己愛と高い自己評価によってテロ行為すらも正当な行為と思い込むようになっていくのだろう。
もしもジョンという存在が消滅した場合、両親も子供も自分自身だから悲しむ者は誰もいない。自分がこの世界に存在した痕跡も残らない。とても孤独で虚しい存在が故に、誰よりも自己愛が強いのかもしれない。
ロバートソンは何者か?
もう1人の重要人物がロバートソンである。彼はジョン(ジェーン)の人生を把握しており、孤児院時代から彼(彼女)の前に現れ、隠居後に爆弾魔へ変貌させる手引きもしているようだ。どの年代でも同じ年恰好で現れるため、常駐している1985年から移動しているのであろう。
彼はこの作品の黒幕的な存在で、ジョンの前で良き理解者のように振る舞っているが、裏ではジョンを優秀な捜査官と凶悪な爆弾魔の一人二役を働かせ、マッチポンプを仕組むことによって組織を拡大している。
- 「あの爆弾魔がいたからこそ、この組織は成長した」ロバートソン
- 「俺たちは操り人形だ。ロバートソンが仕組んだ計画の一部に過ぎない」爆弾魔
しかし、管理局においてはトップではなく中間管理職的な立場のようだ。この管理局は軍隊や情報機関のように国家が管轄しているのであろう。ロバートソンの目的は、自分の組織内ポストのためにジョンを利用しているのだろうか。
最初のジョンはどうやって生まれた?
これが本作最大の謎だろう。2つの説が考えられる。
- タイム・トラベルによる歴史改変の過程で生じた。
- 始まりなどは無く、そもそも特異な存在としてこの世に生じた。
「君は単なる捜査官ではない。タイムトラベルの矛盾から、この世に生み出された贈り物」というロバートソンのセリフを言葉通りに信じるならば説1だろう。それならばロバートソンがジョンという存在を見つけて利用していることにも筋が通る。
しかし私は説2を推したい。なぜならば前述のタイムトラベル考察の通り、本作における世界観は『時間移動に伴う行動と結果も、既定の因果に含まれる』という概念を支持するからである。さらに本作は「卵が先か、鶏が先か」の矛盾に対して「完全な因果のループ」を描いて応えている。この作品テーマと突き合わせると説2の方が相応しいだろう。
そもそも作品タイトルは『DISTINY=自分で意思で引き寄せる運命』ではなく、『PRIDESTINATION=逆らうことの出来ない運命』なのだ。


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