【図解】ドニー・ダーコ|難解映画の代表格

映画感想・考察

★★★☆☆ 2001年 アメリカ 監督:リチャード・ケリー 出演:ジェイク・ギレンホール、ジェナ・マローン、メアリー・マクドネル、ドリュー・バリモア、パトリック・スウェイジ、ノア・ワイリー

あらすじ

ドニー・ダーコは夢の中で銀色のウサギと出会い、「世界の終わりまであと28日と6時間と42分12秒」と告げられた。家に帰ると、空から飛行機のエンジンが落ちてきて、ドニーの部屋の天井に穴を空けている。そして、ドニーの日常が徐々に狂い始める。

設定解説

難解映画として有名な本作は、劇中の情報だけでは設定が全く理解できない。後のディレクターズカット版の追加シーンや、監督自らの解説によって明かされた。その内容を基に、私の考察を含めて解説する。

なお、なるべく分かり易くするために、宗教・哲学・文学などの背景情報を有するポイントについては説明を省く。

28日後に崩壊する宇宙

劇中の世界設定は以下の通り。

  • 「Primary universe」と呼ばれる”主宇宙”は、稀にバグを起こして「Tangent univerce」と呼ばれるコピーされた”接宇宙”=いわゆるパラレル・ワールドを生み出す。
  • このコピーされた”接宇宙”は不安定で、数週間後には消滅する。この”接宇宙”が劇中の舞台になっている。
  • “接宇宙”がコピー生産される時に【本来は1つしか無いはずの物体が、2つ存在してしまう】というバグが発生することもあり、その重複した物体は「Artifact(人工物)」と呼ばれ、劇中ではジェット・エンジンがそれに該当する。
  • この「Artifact」は厄介者で、これを”接宇宙”内に放置していると”接宇宙”が更に不安定になり、やがて”接宇宙”自体がブラックホール化してしまい、”主宇宙”を飲み込み崩壊させる危険を及ぼす。
  • この危険を回避する方法は、「Artifact」を”接宇宙”から”過去の主宇宙”へ転送するしかない。なお、”主宇宙”は安定しているので「Artifact」が存在しても大丈夫らしい。

主人公ドニーは、この「Artifact」を転送して世界を救う役割を担い行動する。というのが本作のストーリーなのだが、このような設定を解説無しで推察できる者は居ないだろう。

登場人物たちの役割

“接宇宙”は宇宙全体の崩壊を防ぐために、”接宇宙”に居る人間に「Artifact」を”主宇宙”へ転送させる役割と方法を与える。

「Artifact」の近くに居た人間が選ばれ、自覚の有無を問わず、その役割通りに動く。

主人公ドニー・ダーコ:宇宙を救う「Living receiver」

「Living receiver」と呼ばれる者は、「Artifact」を転送する主たる役割を持ち、怪力・水・火・念力を操る能力を授かる。

劇中ではドニーが該当し、彼が選ばれた理由は「Artifact」=墜落したジェット・エンジンの近くに居たからである。

ドニーは周囲の者たちの導きに従い、その仕事を全うするのだが、彼は自分の役割や世界の運命を知っていたのか?。当初は困惑していたが、催眠療法中にカウンセラーへフランクの計画を話している様子から最終的には理解していたのだろう。

なお、ドニーの行動や知覚したモノ、劇中で起きた事象は、統合失調症による彼の妄想という解釈も出来るが、彼は夢遊病だが深刻な病状ではなく、教師たちへの反抗的な言動は思春期ならではの行動で、カウンセラーが処方した薬もプラシーボ効果のための偽薬という設定らしい。

“死神オババ” ロバート・スパロウ:先代の「Living receiver」

オババの正体は、劇中の出来事より以前に「Living receiver」の役割を担った者である。

再び宇宙の危機が起きた際に、次の「Living receiver」を導くために、修道女を辞めて科学教師になり「タイムトラベルの哲学」という本を書き残した。

彼女がポストで手紙を待ち続けているのは、次の「Living receiver」すなわちドニーからの接触を待っているためだ。そして劇中の後半にドニーは彼女に宛てた手紙を書いている。

初対面のドニーに突然「人間はみんな孤独に死ぬ」と囁くのだが、これはドニーが手紙に書いた問いに対しての答えなのかもしれない。

兎のフランク:ドニーに指示する「Manipulated dead」

「Manipulated dead」と呼ばれる者は”接宇宙”内で死亡した者が選ばれ、幽体となり過去に戻って「Living receiver」に指示をする役割を担う。

劇中ではドニーの姉エリザベスの彼氏であるフランクが該当する。フランクはハロウィンパーティーの夜に、ドニーに銃で頭を撃ち抜かれ死亡する。兎の着ぐるみ姿でドニーに現れていた理由は、死亡時の仮装姿だったからだ。

車で轢死した恋人グレッチェンは?

彼女も「Manipulated dead」に該当するかもしれないが、フランクのように死亡後の姿でドニーの前には現れない。しかし彼女が死亡することで、ドニーは逆上しフランクを殺したので「Manipulated dead」誕生の因果に関わった。

またドニーに「世界をやり直させる=タイムトラベル成功させる」という強い動機を与える役割を果たしているとも言える。

教師カレンとケネス:ドニーを導く「Manipulated living」

「Manipulated living」と呼ばれる者は、「Manipulated dead」ほど直接的ではないが「Living receiver」を間接的に導く役割を担う。

国語教師カレンは、転校してきたグレッチェンをドニーの隣に座らせる、「地下室の扉」という言葉をドニーに刷り込む、などの役割で因果に関わっている。

物理教師ケネスは、ドニーに「タイムトラベルの哲学」を渡した。

ドニーを「artifact」転送まで促したという点では、その他の登場人物の多くが「Manipulated living」と言えるだろう。キティやカニングハム、校長先生、ドニーに絡む不良たちなど、ドニーと敵対的な関係にある者も、計画成功までの因果に関わるからだ。

時系列を整理

前述の世界設定と人物の役割が理解できれば、劇中で何が起きているのか理解しやすい。

“接宇宙”の誕生前

劇中冒頭のドニーが山道で目醒め、自転車で帰宅するシーン。ドニーの何かを察したような不気味な笑顔から、タイムループの起点であるかのような印象を受けるが、ここはまだ異変前の”主宇宙”での出来事である。

ドニーが夜中に外へ出た理由は、フランクの手引きではなく持病の夢遊病の症状に過ぎない。彼はこのような行動を過去に何度も繰り返しているため、翌日のエンジン墜落時の彼の外出は、”奇跡”ではなく”幸運”ぐらいの感覚で家族は捉えている。

10月2日未明 ”接宇宙”と”Artifact”が発生

未明に”接宇宙”が発生し、初めて現れた銀の兎に導かれてドニーは外出する。この兎は後のハロウィンパーティの夜に死亡したフランクが、死亡時の仮装衣装のまま幽体となり過去に遡って現れた姿だ。

フランクからドニーへの指示内容

フランクは登場以降、様々な形でドニーへ行動を指示する。

ドニーを未明に外出させる。→エンジン墜落事故から命を助ける。

ドニーに学校の排水管を破壊させる。→浸水により学校を休校させることで、グレッチェンと交際するキッカケ(下校時に不良から助ける)を作り、カレンが解雇されるキッカケ(PTA説明会での糾弾)も作る。

カニングハム宅を放火させる。→児ポ所有が発覚したカニングハムの裁判支援のためにキティが居残り、ドニー母がチア遠征に引率する原因作った。母が家に不在となることで姉の合格祝いのためのハロウィンパーティーが開催され、フランク死亡への因果が発生する。

直接的に指示を与えるシーンは以上だが、他にもフランクはドニーの前に何度か現れており、ドニーへの指示や影響を与え続けていると思われる。その理由は、最後の催眠療法のシーンにおいてドニーは、フランクの計画やこれから起きる出来事を(深層心理では)理解している様子だからだ。

フランクの役割と行動は、”ドニーに「Artifact」を転送させるため”なのだが、”そうせざる得ない状況へドニーを追い詰める”という方が適当だろう。

恋人グレッチェンが轢死し、母と妹が飛行機事故に遭い、姉の彼氏を射殺し、ドニーが警察に追われる。このような状況に追い込まれては宇宙の危機以前に、過去に戻ってやり直したくなるはずだ。

ドニーの精神

先にも述べたが、ドニーは重度の統合失調症ではない。しかし元から精神的な疾病を抱えており、夢遊病など発症していた。また過去には廃屋に放火して逮捕、留年、などの経験があることもグレッチェンに語っている。

現在は更生してカウンセリングを受けながら生活中の身であるが、喫煙や教師への反抗などヤンチャな思春期の青年らしい性格は残っている。

“接宇宙”が発生し”Living receiver”に任命されてから、兎のフランクの姿やこれから起きる出来事に悩まされたせいで、他人からは統合失調症のような症状に見えたに過ぎない。

彼は”Living receiver”に任命されて直ぐに状況を理解した訳ではなく、フランクや周囲の人間の導きの過程を経て徐々に自分の役割と運命を察知していったと思われる。カウンセリングの会話から彼の変化を伺うことができ、例えば1回目の催眠療法では”SEX”のことばかり話していたが、最後の催眠療法では”世界の終わり”の話に終始している。

カウンセリングの会話からはドニーは孤独を恐れていることも分かる。初対面の死神オババに言われた「生き物はみんな孤独に死ぬ」という言葉から、8歳の時に死別した愛犬を思い出す。カウンセラーから「自分は孤独か?」と尋ねられると「そう思いたくないが、何度考えても答えは出ない」と答える。これは意味深にも思えるが思春期特有のモノとも言える。つまり、ドニーも死や孤独について考え悩む普通の若者だったのだと私は思う。

ドニーの病状について両親がカウンセラーに説明するシーンがある。これは保護者への説明というよりも安心をさせる=親へのカウンセリングを施しているようにも見える。薬の量を増やすと言っているが、この薬はプラシーボ効果を狙った偽薬という設定なので安心材料を与えているだけだ。

10月30日 世界の終わり

“接宇宙”の消滅前、ドニーは母と妹が乗る飛行機からジェット・エンジンを念力で取り外し、ポータル(空に開いた穴)を通して過去の”主宇宙”へ転送した。この行動により主宇宙は救われ、ドニー自身も過去へのタイム・トラベルに成功した。

劇中の主な舞台となった”接宇宙”が、その後どうなったか描写はないが、ブラックホール化せずに自然消滅したと思われる。しかし、消滅した”接宇宙”での出来事は一部の人間の記憶に引き継がれたようで、劇中終盤の10月2日未明の主宇宙で関係者達が物思いに耽るシーンが描かれている。

再び迎えた10月2日

劇中終盤で日付が10月2日に戻る。しかし、ここは今まで描かれた”接宇宙”ではなく”主宇宙”の10月2日だ。

この時空へ”接宇宙”の10月30日から2つのモノが転送されてくる。ドニーの意識と、「Artifact=ジェットエンジン」の物体だ。

過去に戻った(タイムトラベルが成功した)事を悟ったドニーは、高らかに笑ったあと眠りにつき、墜落したジェットエンジンの下敷きになり死亡する。

墜落事故現場(ドニーの家)を自転車で通りかかったグレッチェンは、この世界では面識のないはずのドニーの母に手を振る。これはグレッチェンにも”接宇宙”の出来事の微かな記憶があったためだ。

最期にドニーはなぜ死んだ?

設定などが公開されて様々な謎が明かされたが、最後にドニーが死んだ理由は不明のままだ。

これは本作最大の謎であり、視聴者によって様々な解釈が生まれるポイントだろう。

ジェットエンジンが彼の部屋に墜落することを知っているのだから、死を避けられたのでは?。それなのに、あえて死を選んだのはナゼ?。といった疑問が浮かぶ。

私の解釈は「自ら死を選択した訳ではないが、死ぬ運命に抗うことなく諦めた」だ。そう思う理由は、死神オババに宛てた手紙、ケネスと話した運命論、カウンセラーと話した神の存在だ。

死神オババへの手紙

この手紙は劇中ではタイムトラベル中に朗読されるが、書いたのは10月26日以前である。手紙の内容と、その意訳は以下の通り。

I reach in your pocket. There are so many things I need to ask you. But sometimes I’m afraid of what you might tell me. Sometimes I’m afraid that you will tell me that this is not a work of fiction. I can only hope that the answers will come to me in my sleep. I hope that when the world comes to an end, I can breathe a sigh of relief, because there will be so much to look forward to.

あなたの本を読んだ。聞きたいことはたくさんあるが、答えを聞くのが怖くなることがある。これはフィクションではないと言われるのが怖いこともある。眠っている間にその答えが来ればいい。そして世界が終わるとき、安堵のため息をつければいい。これから楽しみな事が沢山あるから。

この手紙の内容からドニーは・・・本に書かれている事や、身の回りで起きている事、そしてこれから起きることは現実なのか?、と不安になっている。自分で考えても答えは出ないが、やるべき事をやり終えて、宇宙を救いタイムトラベルを成功させたら、安心してやりたい事をやりたい。そのような心情に至っていると思える。

つまり、苦悩はあるが前向きな心境にあり、自ら死を選択するような考えは全く無さそうだ。

運命論と自由意志

ドニーは意思のビジョン(胸から飛び出るアレ)が見えた後、ケネスと「タイムトラベルの哲学」に書かれている内容について議論を交わしていた。

ケネスは「未来を映像として予知できるならば、それに逆らう選択もできる」という矛盾点を突く主張をしたが、それに対してドニーは「神の媒介なら話は別だ」と反論する。

つまりドニーは運命論者である。そしてその後、フランク達の指示通り=運命通りに行動した結果、タイムトラベルを成功したことにより、その考えは確固たるモノになったのだと思う。

つまり運命には逆らえない事を実体験を通して悟っているのだ。

神の存在

ドニーのカウンセリングでは、しばしば神の存在について話題が挙がる。

彼は宗教家カニングハムや彼を支持するキティに反抗しており、敬虔なクリスチャンではなさそうだった。

ところが一連の出来事を通して運命論と同時に、宇宙を調和を司る超常的な存在=神を認識したのでないだろうか。

劇中にはキリスト教の文化や唯一神の暗喩が散見する。例えば、アジア系の太った少女だ。彼女はドニーを慕っている身近な存在で、何度も登場するが一連の因果には全く関わってこない。因果の外に居ながらドニーを見守っている存在で、まるで天使を連想させる。

これらキリスト教関連の話題は感覚・文化的に理解が難しいので深掘りしないが、作品中にこれらの要素が織り込まれているのは間違いないだろう。

まとめ

ドニーは未来に起こる事が予見できていた。そんな彼にはジェットエンジンの下敷きになって死ぬ運命までが見えていたのではないだろうか。

自らの行動と経験によって運命論と神の存在を確信した。だから死ぬ運命にも抗わない。そして死神オババの「死ぬ時はみんな孤独」という言葉の意味も悟ったのだろう。

タイムトラベルを経験し全てを悟った彼は、高笑いした後そのままベッドで眠る。彼の充足した表情には、使命を果たした事への充足感、宇宙を救った事への誇り、家族や恋人が復活した事への安堵、苦悩から解放される喜び、などが表れているように思える。

ひょっとすると死後の自分の姿も見えているのかもしれない。

感想

初見の際は「画面が暗くて見にくい!」そんなフラストレーションを抱えながら鑑賞した。

難解映画の代表格だけあり意味が分からない事だらけで、普通に面白くなかった。難解映画でも初見から楽しめる映画はあるが、この映画はそうではなく、解説動画やサイトで知識を入れてから再視聴することで、ようやく面白さが増す映画だった。

その一方で、予備知識がない方が解釈の幅が広がって楽しいという感想や考えもあるだろう。公開の後年に監督が答え合わせを提示したことで、不思議な魅力が半減したという意見もあるようだ。

私にとっては映画自体はつまらないが、考察記事を書くのは楽しい(やり甲斐のある)作品だった。

参考

本作を考察するために海外を含めて様々な解説動画やサイトを見た。その中で分かりやすいモノを紹介しておく。私の一番のオススメはちかこチュベローズさんの解説動画。

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