★★★★☆ 2013 イギリス 監督:リチャード・カーティス 出演:ドーナル・グリーソン、レイチェル・マクアダムス、ビル・ナイ、トム・ホランダー、マーゴット・ロビー、ヴァネッサ・カービー
あらすじ
21歳の誕生日に、一家の男にはタイムリープ能力があることを知らされたティム。ロンドンでメアリーと出会い、彼女を恋人にするため、何度も過去を繰り返す。
感想
タイムリープ作品として有名だがSF色は薄く、前半はラブコメ、後半は家族愛を描いている。多くの人が語る通り、清々しい感動と”気付き”を与えてくれる良作。
公開当時に劇場で観た時は、素敵な作品だと感動した。ところが12年後の現在に改めて観ると、以前とはまるで違う感想を抱いた。それは私自身が結婚・育児・両親の死別などを経験し、本作が示すテーマを実生活を通じて既に自覚・体現しているからだろう。
ここからは少し意地悪な考察も書くので、本作を愛している方は気分を悪くしないように。
登場人物

主人公の家庭は超リッチ。田舎とはいえ海辺に近い豪邸で家族5人暮らし。大学教授だった父は50歳で退職して悠々自適の生活。母は専業主婦で好きな事に没頭。同居する母方の叔父は高そうなスーツに身を包んでいるが、どう見ても無職。このような生活水準を維持するのは中々の資産家や社会的階級でなければ不可能だ。
おそらく代々受け継がれたタイム能力によって財を築いたことは想像できる。いかにもセレブっぽい外見ではないが、上品な振る舞いを感じる。なによりも、この家族は時間に囚われない自由な生活をしている。これこそが真の裕福と言えるだろう。
一方でティムがロンドンで出会う人々は、都会生活が忙しいせいか狭量な一面が見られる者ばかり。ハリー、ローリー、ジョアンナは、しばしば毒付いているし、キットカットは都会に馴染めず病んでしまった。そんな街で出会ったメアリーは、ティムには聖女のように見えたのかもしれない。
“柔和な陰キャ”だが”ハイスペックで独善的”な主人公
そして主人公のティム自身も実力で弁護士になり、ロンドンの司法事務所に就職したハイスペック男子。実家は金持ちで、ピュアで可愛い妹まで居る。その上、タイムリープ能力まで手に入れるのだからチート主人公だ。きっとタイムリープ出来なくても充分に人生を謳歌しただろう。
そんな先天的に”持てる者”であるティムに対して、”持たざる者”である我々視聴者に嫉妬させないように、”陰キャ”、”田舎者”、”空気読めない”、”女に一途”という属性が効いている。就職の際、わざわざ父の知人の家に下宿させる展開は、経済的な自立を表しているが、”苦労人”アピールのようにも感じる。

性格はとても優しいが、独善的な面も窺える。能力を駆使して意中のナンシーを射止めたが、その行動はストーカーそのもの。シャーロットの誘いは土壇場で断り彼女に恥をかかせる。
決定的なのはキットカットの事件だ。妹のために過去に戻り歴史を改変したが、その余波で自分の子供に影響が及んだ事が分かると、改変そのものを帳消しにした。この選択は仕方ないとしても、この顛末の中で妹本人の意思は十分に確認したのだろうか?と疑問に思う。
弁護士を職業に選んだ事も彼の性格を反映しているようで面白い。
2次元ヒロインのような理想的彼女
彼女で妻になるメアリーは、とても素敵な女性だ。美しく優しく社交的。子供に優しく、義理の両親とも仲良く付き合い、夜の営みも積極的。完璧過ぎて言葉も無い。それ故にキャラクターとして魅力が薄い。

初見時に独身だった私は「こんな奥さん、羨ましいな」と思ったが、それは男性にとって都合の良い願望を具現化した女性だからだ。現在の感覚では”2次元ヒロイン”のように映ってしまい、シャーロットやメアリーの友人ジョアンナの方が魅力的に見える。
映画前半では、メアリーはティムの物語にとっての”目標”だった。しかし、映画後半になると彼女は物語の中心から外れてしまい、家族愛を描くための舞台装置になっている。一般的な話だが、母になった妻は夫にとっての優先順位が下がってしまう。そのような現実と重なるとも言えるが、脚本家にとっても都合の良いキャラクターで気の毒に思えた。最後は彼女を物語の中心に戻して欲しかった。
デズモンドおじさんは何者か?
ティムの叔父(母の兄)であるデズモンド。家族を描く作品でも本作のように叔父が同じ家に同居するケースは少し珍しい。彼は作中では”変わり者”と称されるが、リアルに言えば軽度の知的障害あるいは発達障害を抱える者だろう。家庭や作品全体を和ませるキャラクターであるが、不在でも物語の展開に影響はなさそうに思える。なぜ彼は登場し、どのような役割を担っているのかを考えてみた。
まず、彼はティムとキットカットの性格形成に影響を与えている。この兄妹は優しく愛嬌がある一方で、空気を読めない間抜けさも持ち合わせている。しかし、そのような性格は両親に似ておらず、むしろデズモンドおじさんに近い。つまり母親家系から遺伝された先天的な気質かもしれない。そして後天的にも兄妹へ影響も与えており、幼少期から彼と同じ家庭で過ごした事で、他者を慈しむ心が育まれたと想像した。

次に、彼は”持てる者たち”へ向けられる羨望や反発を緩和させる役割も担っている。簡単に言えばティム家のイメージアップだ。前述のようにティム家は裕福で、もしもデズモンドが居なければ、”リッチなセレブ貴族”である面が濃く映ってしまうだろう。彼のような者を家庭で養う大変さを観客は無意識に想像して同情や共感が促される。
また、彼を受け入れている家族の寛大さを感る場面も随所にある。特にティムの結婚式で父が発した乾杯のスピーチで、自分の事に触れられたデズモンドが一瞬見せた照れくさそうな表情には、これまで自分を受け入れて養ってくれた事への感謝の念が現れているようで、私も目頭が熱くなった。
ティムが父親になる物語
この物語はティムが父から能力の説明を受ける事が起点となり、父になったティムが子供を見送るシーンで終わる。つまり本作は、ティムが父親になるまでの成長と継承の物語だと思う。
初見の時は、”ラブコメ”、”タイムリープ”、”気付き”、などの要素にばかり目を向けていたが、改めて見ると男性が父親になるプロセスをしっかり描いている事に気が付いた。

- 成人の通過儀礼(タイムループの伝授)
- 経済的な自立(就職してロンドンへ)
- 伴侶探し
- 家族の保護(キットカットの救済・支援)
- 子供の養育
- 完全な自立(父との死別で精神的な後ろ盾を失う)
ティムの父も興味深い人物で、バックボーンを想像させる余地を沢山与えている。万が一にも無いだろうが続編が作られるならば、前日譚で父の人生を見てみたい。
- 読書、卓球、音楽、など随所で示される趣味
- 乾杯のスピーチでの「私の父は冷たい人間だった」という発言
- 愛想の少ない母との馴れ初めや、デズモンドとの関係
- 収入や生活費の工面
タイムトラベル考察
本作のタイムトラベル(タイムリープ)は物語のオマケ程度に過ぎない。そのため設定はガバガバだ。ゆる過ぎて考察の意味は無いかもしれないが、あえてする。

時間移動の仕様
- クローゼットのような暗く狭い空間に篭り、念ずると自由に過去へ移動できる(タイムリープ能力)。
- 過去の自分の肉体へ精神が憑り、出発時と同じ場所(クローゼットの中)に到着する。
- 同じ方法でクローゼットを通じて現在へ戻る事が可能
- タイムリープはティム家の男子に代々伝わる先天的能力。
- 過去への干渉は個人的な事柄に限られる。国家の歴史を変えるような事はできない。
- 自分の子供が産まれる以前には戻らない方が良い。過去へ干渉した影響によって受精のタイミングが変わり、本来と異なる赤ん坊が産まれる。
- 過去の歴史を変えた場合、変更前の記憶は時間が経つとティム自身も忘れてしまう。
数あるタイムトラベル作品の中でもチート級な自由度の高い仕様だ。過去を変えた事による時系列の狂いや矛盾は少ないが、やはり設定の甘さが気になった。私が特に気になったポイントは以下の通り。
- 本来はクローゼットに居ないはずの時間でも、時間移動後はクローゼットに居ること
- キットカットの歴史改変の帳消しプロセス
- 「子供が産まれる前に戻るな」という戒めを無視した都合の良い展開
- 現在へ戻らずに過去に留まり続ける事が可能(=条件付きで永遠に生き続ける事も可能)

疑問1)タイムリープの際、過去のティムが未来から来る自分の精神を迎え入れるために、事前にクローゼットで待機しておく必要がある。つまり、過去のティムはそれを予知しなければ不可能だ。未来のティムが意思決定すると過去へ伝播し、過去のティムは自動操縦モードに切り替わって待機行動をするのだろうか?。なかなか納得できる仮説が思い浮かばない。
疑問2)キットカットのために過去へ遡り歴史を変えたが、自分の赤ん坊に影響が出たので元のタイムラインへ戻した。劇中では復元プロセスを全て省いている。かなり込み入った手順になるし重なシーンではないから理解出来る。納得いかないのは、キットカットを連れて時間移動したことだ。突然それまでのルールを無視をするし、慎重さに欠ける行動に思えた。
疑問3)生前の父を訪ねる最後の機会、2人はさらに過去へ遡り少年時代の海岸で時間を過ごす。これはとても良いシーンで私も泣いた。ところが冷静に考えればティムの子供の誕生以前に戻るので、本作で唯一と言っていいほどの戒めを自分達で破っている。「誰にも会わなければ現在に影響はない」という注釈はされたが都合の良さを感じ、折角の感動に水を差された。ここは回想シーンでも良かったと思う。
疑問4)現在に戻らずに過去に留まる事ができる。これは最も優れた能力だ。不意の事故で命を落とさない限りは、永遠に繰り返し生き続ける事が可能である。しかもオール・リセットしても裕福で温かい家庭で生まれているから、スタートダッシュに苦労する事もない。かつての先祖の中にはそんな事をした人間もいるだろう。父からの「1日を2度体験して充実した1日を積み重ねよ」というアドバイスは、人生の晩年を迎えた時に後悔を残さず寿命を受け入れるために代々受け継がれた教訓なのかもしれない。


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